グラウンド・ゼロ湖をはるばる乗り越えて、前回から中部エリアで配達を開始したブリッジズ第二次遠征隊のサム。前回はパワースケルトン目当てで真っ先にエンジニアのところへ配達に行ったので、今回はエルダーのところへ行きたいと思います。彼のシェルターはエンジニアのシェルターからさらに南へ下った小高い丘の上にあります。坂道が急なので、ちょっと面倒な配達先です。

エルダー(シェルター23-18)へ常備薬を配送し、カイラル通信の接続を依頼する。エルダーは高齢のプレッパーズ。配送が滞っていたせいで、薬のストックが少なくなっている。

サム指名依頼 No. 20「エルダーへ常備薬を配送」の依頼の詳細より

配達依頼の説明文を読むとわかるんですが、エルダーは名前のとおり、けっこう高齢のおじいちゃんです。どんな病気かはわかりませんが、薬がないと生きられない状態になっていて、テロリストの攻撃のせいで数か月にわたってフラジャイル・エクスプレスの配送業務が滞ってからは、ストックしていた薬を飲み続けながらなんとかしのいでいたようです。生きるうえで必須のものがどんどん減って、底を尽きかけている状況って、現実でも災害時の想定なんかでちょっと考えることがありますが、ものすごい苦痛ですよね。もはや拷問です。早く常備薬を持っていってあげたいですね。

エルダーの常備薬を背負ってレイク・ノットシティを出たところで、国道の舗装装置のすぐ隣に金属が落ちていたので、その場で素材を投入することにしました。するとママーから以下のとおり通信が入り、配送センターから素材をわけてもらい、舗装装置に投入することもできると助言をくれました。

サム、ちょっといい? 配送センターなどの施設に保管された素材は、装備品の作成に使える。引き出して建設に使うこともできるわ。だけど、あなたが使える素材の量は施設ごとに違うの。それぞれの配送端末で確認して。

ママー

国道の素材のおもな調達先はミュールの集荷基地なんですが、切羽詰まってくると配送センターからできるだけ搾り取る作戦になると思います。素材をどの程度わけてもらえるかは、担当者とどれだけ仲がいいかで決まるので、サムの働きぶりが問われます。

あと、そもそも担当者と仲がよくても、欲しい素材が配送センターにないともらえるものももらえないので、普段からこまめに素材を拾ったり、きちんとリサイクルしたりするのは大事だと思います。

イーストンさんのメール

その昔、キャピタル・ノットシティのイーストンさんがまだサムのことを新人と勘違いしていたとき、時雨で劣化した道具は、「配送端末からリサイクルするか、本当に困っている他の配達人のためにシェアボックスに入れるかして、新しい道具を作成した方がいい」とメールで教えてくれていました。地球に優しいゴミ箱代わりのリサイクル機能は、手元に要らない物が出てきたときに日常的に配送端末から使う機能なんですが、イーストンさんのメールによると、今は亡きサムの養母の名を冠した「ブリジット基金」が運営して成り立っているそうです。この自分の名前を冠した慈善活動の基金とか財団とかがあるって、典型的なお金持ち感がありますね。小説の説明によると、ストランド家はアメリカ建国の時代からインフラストラクチャーの建設に多大な貢献と関与をしてきた名家みたいなので、現実だとケネディ家とかブッシュ家並みの一族なのかもしれません。ブリジットが現実の女性政治家と違って、ガラスの天井を突き破れていた理由のひとつだったら、それはそれで説得力がありそうです。

ブリジット基金

リサイクルをすると、ブリジット基金のロゴとともにストランド前大統領の顔がドドーンと表示されます。ここ、すごいアメリカ合衆国のビジネス感があって好きです。このゲームは私が最初にプレイしたときからずいぶんアップデートが入って、今では細かいムービーも簡単にボタンひとつでスキップできるようになったんですが、ここの前大統領のお礼ショットだけはスキップできるボタンが表示されません。たまたまでしょうけど、なんかこのゲーム独特の女性陣がぐいぐい来る感じがこんなところからもあふれでています。

エルダーのシェルター

はい、そんなどうでもいいことを書いているあいだに、着きました。崖の上にあるエルダーのシェルターです。この場所からだと、物語の終盤にいやでも往復することになる西部エリアの雪山がよく見えます。ここは序盤だと来にくい場所なんですが、雪山を経験すると斜面もごり押しで登れるのでかわいいもんだと思えるようになりますね。

エルダーの人柄はゲームだとあんまり語られることがなく、プレッパーズらしいプレッパーズなので、強いて言うなら頑固ジジイぐらいの印象しか残りません。しかし、小説『デス・ストランディング』では、前回も書きましたが、フラジャイルの父親との交流など、わりと追加の描写が多い登場人物になっています。これによると、エルダーはわざとこんな人が来にくいところにシェルターを建てたそうで、自身も自分がひねくれ者だと自覚しています。

ゲームではあまり語られませんが、小説によるとどうやらエルダーには移民の子という設定があるようです。デス・ストランディング現象で南の都市に火の手が上がり始めたとき、「あの炎を越え、国境を越えたところに老いた父と母がいる」と書いているので、おそらくメキシコ系だと思います。

タバコを初めて吸ったのは14歳のときで、アメリカ合衆国が滅んだ今でも手に入る限り吸い続けている喫煙者のようです。表現の規制を気にしないといけない作品だからあれですけど、現実だったら違法薬物とかにも普通に手を出していそうなタイプですね。サムが訪れたときにもタバコをふかしている描写があります。これを書くと、病名もわからないのに、なぜか体を壊したのは自業自得感が一気に強くなるから不思議です。だからと言って、本来手に入るはずの薬の供給をとめていい理由には、もちろんならないんですけどね。ただ、タバコはもうやめろとフラジャイルの父親からも忠告されています。

小島監督の作品だと、タバコは最近まで『メタルギア』シリーズでハードボイルドな雰囲気を醸し出すキーアイテムになっていました。ただ、さすがに令和になってしまった今では、自分の健康だけでなく、周りの健康も損ねる有害物質というイメージが定着しているので、かっこよさを醸し出すには無理が出るアイテムになってきました。エルダーはもしかしたら、この作品にわずかに残された古き良きハードボイルドを表す存在なのかもしれません。これだと逆に、常備薬が尽きて死ぬことになっても、それはそれでオレの運命だとか考えて、めちゃくちゃ腹をくくっていそうな人物に見えてきますね。実際に小説ではサムに、自分が滅びる夢をなんども繰り返し見て、もう長くないことを悟っていると語っています。

エルダーはお酒もたしなむようで、フラジャイルの父親がシェルターに配達に来た回想シーンで、アクア・ヴィターエという蒸留酒でもてなしています。アクア・ヴィターエってどんなお酒か気になって調べてみたら、アクア・ビットとも呼ばれるジャガイモから作る蒸留酒だそうです。むしろ材料さえそろえば自分でこういうお酒を作りそうな感じすらありますね。アクア・ヴィターエもアクア・ビットも、「生命の水」を意味するラテン語の“aqua vitae”から名づけられていて、同じく「生命の水」を意味するゲール語の“uisce beatha”が名前の由来になっているウィスキーに近い名前だそうです。回想シーンでわざわざこのお酒の名前が明言されているのは、エルダーがフラジャイルの父親にこの生命の水を飲ませることに意味があるからだと思うんですが、なんでなのかはよくわかっていません。生命の水を飲んだフラジャイルの父親のほうがエルダーより早く死んでしまいますしね。

ほかにも、両者の会話の最中に、フラジャイルの父親が自分の右手首とエルダーの左手首を梱包用のロープで結ぶ場面があるんですが、これもなんでなのかよくわかっていません。右手と左手は『なわ』の考察で考えをまとめたことがあるんですけど、いまいちこの場面に当てはめて考えにくいんですよね。ただ、この二人の関係が物語のなにかしらの要素を表してはいると思います。ついでに書いておくと、エルダーは右脚が不自由なようで、しばらく前から引きずるように歩いているので、左右が重要なら右半身がなにか重要なのかな?

エルダー自身はアメリカ合衆国生まれなのでアメリカ市民なんですが、エルダーを国内でもうけた両親はどうやら国籍や永住権を取得できなかったらしく、デス・ストランディング現象が起こる前から家族の再会は絶望的だったと語られています。移民の不当な扱いをめぐる摩擦や、不法移民を締め出すために建設の可能性がほのめかされていたメキシコとの国境の壁など、明らかにドナルド・トランプ大統領を意識して作られたキャラクターになっています。となると、アメリのモデルはさしずめイヴァンカ・トランプですかね。こうした彼の背景を加味すると、彼がいかにしてプレッパーズになったのかがおのずと見えてきます。

アメリカ市民になれなかったエルダーの両親は、祖国に戻ることを余儀なくされ、一人残されたエルダーは、政府が国境に築こうとした壁のせいで親を追いかけて国を出ることもできませんでした。彼の家族は、政府によって引き裂かれています。そんな国を愛せというほうが難しいでしょう。エルダーは自分のもとに荷物を届けにきたフラジャイルの父親に、「アメリカなんかろくなもんじゃない」と言っています。そしてフラジャイルの父親は「ブリジット・ストランドは、本気でアメリカを再建するつもりらしい」という情報を、酒がまずくなる凶報としてエルダーに提供しています。

ブリッジズという組織を編成したらしい。アメリカ再建を実現するための組織だそうだ。もともとは、デス・ストランディング直後の混乱を収束させるための大統領直轄の実働隊が、ブリッジズと呼ばれていた。噂だが、当時は暗殺や破壊工作も厭わない組織だったらしい。しばらくすると厄災を乗り越えるための対策や研究に軸足を移した。いまのところ、その成果がでているとは聞いていないが。最近になって、能力者と呼ばれる特別な能力をもった人間の研究をはじめているようだ。ビーチや死への感覚が常人離れしていて、BT を感知できるような能力者の研究を。

フラジャイル・エクスプレスを率いる配達人

フラジャイルの父親がエルダーを訪ねた回想シーンは、デス・ストランディング現象が起きはじめてから十年ほど経ったタイミングで、フラジャイルが生まれる少し前です。未曾有の大災害に見舞われた北米大陸もさすがに慣れてきて、体制の立て直しを図るなど、能動的に動けるようになってきた頃合いだったんでしょう。世の終末にそれでも北米大陸の人々を束ねようとするブリジット・ストランドについて、エルダーは「アメリカ最後の大統領だと、いつまでも名乗りつづけている誇大妄想の指導者」と酷評しています。フラジャイルの父親によると、彼女が立ち上げたブリッジズは、もともとデス・ストランディング直後の混乱を収束させるためなら、暗殺や破壊工作も厭わない怪しい組織だったようです。スパイもの映画に出てくる CIA とか、そんな感じのイメージですね。実質、前大統領と同一の存在のアメリも、自分の目的のためにヒッグスを分離過激派テロリストの頭領に仕立て上げていますから、それはそれで妙な説得力があります。

それに比べて、今ブリッジズの顔として北米大陸を回っているサムは、荷物の配達が主体となる活動なので、めちゃくちゃ地味に見えます。しかし、実際は各地をカイラル通信でつないで、絶滅体のアメリが大規模な絶滅を起こすための下準備を着々と進めているので、サムも立派なブリッジズの破壊工作員であると言えます。やっぱりなんか、ブリッジズが大統領の汚れ仕事を担う怪しい組織だったっていうのは、説得力がありますね。ブリジットとアメリは、ダイハードマン、ヒッグス、そしてサムと、複数の男を手玉にとって自分の計画をしゅくしゅくと進めています。

今までブリッジズを客観的に見るときは、養母のもとから出奔したサムの批判的な目線ぐらいしか参考にできる情報がなかったんですが、ここにきて敵対的とも言えるプレッパーズの目線で描かれたことで、ブリッジズのまた違う顔が見えてきました。こういうところ、おもしろいと思います。みんなが切羽詰まった世紀末な世界に、多種多様な人間がいるのはリアルだし、描ける話の幅が広がるからいいと思うんですよね。単純にライフステージで考えても、エルダーは老い先短い老人なわけで、これからの生活を考えないといけない若い世代とは、価値観や具体的な損得の基準が違って当然です。そこに人種問題がさらに絡んできたので、ゲームでももうちょっと掘り下げればよかったのにと思ったぐらいでした。いや、もったいない設定だなと思ったんです。

シェルターの入り口で雪山なんか撮影せずに、さっさと納品しにこいよって感じですよね。エルダーは先述のとおり、アメリカ再建を掲げるブリッジズには非協力的なんですが、サムが荷物を持っていくと、「たった一人の私でも、ここまで命を繋いでこれた。それはなんの見返りもなく配送してくれる君たちのおかげだ」と感謝の言葉で出迎えてくれます。小説ではフラジャイルの父親に「アメリカっていうのは、ただの国じゃないと思うんだ。だから国に銃を向けることも許される。かわりに、依存するだけじゃなく、自分で生きる権利が保証される」と血の気の多いことを言っていましたが、正反対とも言える思想を持つブリッジズの人間にも、お世話になったときはきちんと丁寧に感謝を述べられる真っ当な人間なんですよね。年の功かもしれませんが、そこらへんの野良のミュールやテロリストと違って、人格はちゃんとしていることがわかります。

しかし、それはそれ、これはこれ。依然として国家には信用がないらしく、「またあの時代の過ちをおかしてしまう」と新しい国家であるアメリカ都市連合(UCA)への加入は拒否します。国家どころか、フラジャイル・エクスプレスについても、テロ攻撃が起きて物騒になったのは組織が大きくなりすぎたせいだと語り、ミドル・ノットシティの爆破にフラジャイルが関与しているというウワサも「全くのデタラメとは思えん」と不信感を募らせます。前回のエンジニアとは全然違いますね。

「異なる人間たちがひとつに繋がるなんて、カオスだよ。勘弁してくれ」あたりのセリフは、移民ゆえに苦労した人間だからこそ重みが増す言葉だと思います。きれい事だけの精神論で集団がうまくまとまって、人間関係の摩擦がなくなるなら苦労しないって話です。エルダーはそういう点で、所属してきた集団や組織に真っ当に扱われてこなかった人物の代表のような存在です。その経験から、孤立を好むようになっています。

創業者の跡を継いだ娘のフラジャイルが別の配送業者と組んでから物騒になった件は、ヒッグスだけでなく、そのまんまブリッジズにも言えることだと思います。実際に、小説ではエルダーが「ブリッジズの連中が、この地に大勢でやって来て以来、分離主義者達との小競り合いが起きるようになっていた」とサムに語ります。ブリッジズを率いるアメリはヒッグスの親玉なので、真打ち登場感すらあります。そしてブリッジズは分離過激派テロリストに対抗する手段として、この中部エリアの住民に UCA 加入を呼びかけました。なんか皮肉ですね。

あと、こういうところでも、フラジャイルは利用されて、搾取されて、虐げられる者なんですよね。小島監督の女性キャラクターってなんかこういう境遇多くないですか……?

アメリカ都市連合(UCA)に加盟せず、ブリッジズと契約する場合は、その場所(エリア)にカイラル通信を接続するだけということになる。契約者はブリッジズによる配送サービスを受けられる。それからカイラル通信のインフラや機能を使うことができる。互いに技術を交換して新しい装備を開発したり、相互の情報を見ることはできない。つまり、我々との情報共有は成されないということだ。君はその場所ではカイラル・プリンターで出力された機材を受け取ることもできない。できれば UCA 加盟まで漕ぎ着けることが理想だが、カイラル通信を繋ぐことができれば、最低限の目的は達成したことになる。いつか UCA へ加盟してくれるかもしれない。『ブリッジズ契約』に必要な Qpid は配送端末が自動的に選定する。

ダイハードマン

ゲームのエルダーは、UCA 加盟には難色を示すものの、初回配達時に素直にカイラル通信をつないでくれます。接続時にダイハードマンが、UCA に加入せずカイラル通信だけに接続する状況がなにを意味するのかを、上のようにきちんと説明してくれます。「君はその場所ではカイラル・プリンターで出力された機材を受け取ることもできない」とあるとおり、UCA 未加入の状態では、サムがこのシェルターで装備品を作成できないなどのデメリットがあります。つまり、サム個人としても、プレッパーズの UCA 加盟を促さなければならない事情ができるということです。これはブリッジズにうまいことやられた気がします。

小説のエルダーはもう少し現実的な描写になっているので、サムが最初に訪れたときに、「きみは Qpid をもってきている。アメリカを再建するためにな。わかっている、このシェルターをカイラル通信の拠点にするんだろう。きみがもってきた常備薬は、そのための取引材料だ。わたしが接続を拒否するようなら、きみはそいつを持ち帰ると脅せばいい」とブリッジズの腹を見透かしている言葉をサムに露骨に投げかけます。サムは本心ではどちらかというとエルダー寄りの思想の持ち主なので、彼の考えに理解を示して、無言で常備薬だけを置いて、カイラル通信の接続も、UCA の勧誘もせずに彼のシェルターを去っています。エルダーはそれで再考の機会を得たようで、しばらくしてからサム指名の配達依頼を新しく入れて、昔話付きで UCA 加盟を申し入れてきます。

エルダーの昔話には、ゲームでは語られていないフラジャイルとヒッグスの情報が含まれています。フラジャイルは父親が急逝して、会社の経営を受け継いでから、しばらくはブリッジズとプレッパーズのあいだでうまく立ち回っていたらしいです。崖上のエルダーのシェルターにもなんども配達に来たと言います。その後、ヒッグスと手を組むんですが、エルダーはその理由を、フラジャイルが父親の会社を一人で背負いきれなかったからだと述べています。フラジャイルはその名のとおり、もともと気弱で、ヒッグスに裏切られたことで自分の弱さを痛感したので、サムと出会ったときには強く生きようとしているキャラクターになっているのかもしれません。壊れ物のフラジャイルの名前はこういうところから付けられたのかな?

エルダーによると、ヒッグスは西からやってきたそうです。彼は西には資源が豊富にあると語り、本当の問題は適正な配分だと主張してフラジャイルと手を組んだと言われています。

配送の問題

似たようなことは以前に読めるようになっていたダイハードマンの5年前のメールにも書かれていたので間違いないと思います。ただ物資が豊富にあるのが西というのは新情報です。ヴィクトールさんの回想では、東海岸のほうがデス・ストランディング現象の被害が少なくて安全というウワサがあって、実際にブリジット・ストランド前大統領が率いるブリッジズの拠点になっていたエリアなので、なんとなく東のほうが生きるために必要なものがそろっていて住みやすそうな印象があったんですよね。混沌としていたからこそ、西から物資が動かせなくなっていたということなんでしょうか?

おそらくヒッグスがもともといたところに物資がたくさんあったんでしょうけど、具体的にどこのことなのかはいまいちよくわかりません。のちのちヒッグスだったとわかるプレッパーズの一人、ピーター・アングレールのシェルターも中部エリアの西のはずれにあるんですが、あそこらへんだとするとミドル・ノットシティの周辺に物資が偏っていたということになります。それともピーター・アングレールのシェルターはのちほど建てられたもので、ヒッグスが言う西は西部エリアやタールに沈んでしまった西海岸エリアのことを指していたのかな?

ヒッグスと組んだフラジャイルは、自分のビーチを経由して配送荷物を動かしていたそうです。引き取り場所でビーチに荷物を送り、お届け先でビーチから目当ての荷物を取り出す感じですね。サムがプライベート・ルームからフラジャイルジャンプをするとき、彼女は「ジャンプできるのはあなたの体とあなたが本当に大切だと思うもの」と説明しています。これは普段のゲームプレイだけでなく、物語終盤の展開で見られるビーチへの移動でも同様の設定になっています。なにが言いたいのかというと、サムはフラジャイルのビーチを通じてお届け物を動かすことができません。ヒッグスと組んでいたときのフラジャイルが、なぜビーチへ荷物を持っていけたのかというと、おそらくこのときの彼女は、父から受け継いだ自分の会社の配送荷物一つひとつを本当に大切だと思っていたんでしょう。逆に言えば、今はそれほど重要視していないということになります。そして、ブリッジズ第二次遠征隊になったサムにも、それほどの思いはありません。

フラジャイルの力を借りて、ヒッグスは配達人として成功し、権力を得るとともに豹変したとエルダーに語られています。エルダーはヒッグスが黄金のあのマスクを着けはじめた時期を知っているみたいです。「おい、そんな中二病みたいな格好はやめろ! いい歳して恥ずかしいだろ!」と冷静にツッコんでみたことはあったのかな?

フラジャイルとヒッグスの関係は、ただ業務提携していたことしかわからないんですが、フラジャイルが弱さゆえにヒッグスに依存していたみたいにエルダーが語るので、男女の関係だった可能性もあるかもしれません。

あの娘はそれをひとりで背負いきれなかった。だからあの男に、ヒッグスに転んだ。そしたら、どうだ。わたしのところにも来てくれなくなった。

小説『デス・ストランディング』

「わたしのところにも来てくれなくなった」の表現は読んでいてちょっと気持ち悪いと思いましたね。女を自分の所有物みたいに平気で言う男の感性が表れているように感じます。配達するのは別にフラジャイルでなくてもいいんですけど、それが当たり前というような文章の流れになっています。そもそも顧客の一人でしかないエルダーに、フラジャイルのプライベートにゴチャゴチャ口を突っ込む権利なんて欠片もないはずなんですよね。それを小説のこのパートでは平然と書き連ねています。ここらへんはエルダー視点だからこそ見えるお客様ゆえの傲慢さも出ている気がします。そうでなければ書き手の偏った思考ということになります。

ヒッグスと恋愛関係だったらおもしろいと書いたのは、フラジャイルを弱い女として描くなら、むしろそっちのほうが変化がついて差がわかりやすいと考えたからです。ビーチは個人の精神にひもづけられている場所です。フラジャイルにとっては、心をさらしているも同然と考えると、ドラマがあっていいと思うんですよね。フラジャイルはそこにお客様の荷物を通し、ヒッグスを通し、サムを通そうとしています。でも、彼女はサムより前の試みで組もうとした男にも、一生懸命配達の仕事で奉仕した顧客にも、ことごとく裏切られてひどい扱いを受けています。

それ以前の話をすると、フラジャイルを弱い女にすること自体がおもしろくないと私は考えています。

うち、実家が事業をやっていて、下町に小さな工場を持っているんですけど、雇った人間の動きを見ていると、パートの女性で成り立っているところが大きいんですよね。自分の本業のフリーランスにしても、長期的にみて頼りになる働き手はたいてい女性です。逆にいい歳した男性を雇うと、経歴は立派でも、現場では責任をとらずに厄介な仕事を下の人間に投げて手抜きすることが多々あって、文句を言いながらも現場で踏ん張って仕事を仕上げてくれるのはだいたいパートのおばちゃん軍団だったりします。

政治において、言ってほしいことがあれば、男に頼みなさい。やってほしいことがあれば、女に頼みなさい。

マーガレット・サッチャー

今は父親も育児をするのが普通の時代になりましたけど、私がまだ小さいころは、それこそ工場の女性陣は子供を育てながら忙しいなかで仕事を回してくれていました。彼女たちには頭があがりません。もちろん個人差もあるから、男だったら~女だったら~で一概に言えることではありませんが、フラジャイルが経営者としての素質を欠いていて、男を頼ったから悲劇が起こったみたいな筋書きは、いかにも男女差別的な思想を持った男性権力者が好みそうで、純粋に筋書きがおもしろいと思えないんですよね。KOJIMA PRODUCTIONS にもこういった思想があるんじゃないかなと邪推してしまいますからね。恋多き女は男性受けがいいでしょうし、男がいないとダメな女も男性が好きそうですし、過去作の物語を見るに、ボロボロに虐げられる女性を小島監督は好きそうなので、作り手の性癖もあるのかもしれませんが、個人的にはそろそろ視点を変えていかないと時代遅れの物語しか作れなくなるんじゃないかなという気がします。

フラジャイルの表情

レイク・ノットシティに到着した日に、プライベート・ルームでフラジャイルと話したとき、ゲームのムービーと小説でフラジャイルの表情が違うと指摘したことがありました。フラジャイルはブリッジズへの全面協力を約束して、ブリッジズの顔となったサムに、自分とヒッグスの因縁を語ります。話を聞いたサムは「それでヒッグスに復讐を? 君ひとりで?」と他人事のように尋ねます。ゲームのフラジャイルは復讐かと尋ねられたときに目線を右下にずらし、「君ひとりで?」という追加の言葉を聞いて少し長めの瞬きで目をつぶり、腰かけたベッドから立ち上がる際にまっすぐサムを見据えています。この演技はいら立ちの表現です。

小説では「ひとりじゃないわ」と微笑んで、自分の能力を率先してサムに披露しています。ゲームのフラジャイルは演者のレア・セドゥさんの演技がそのまま反映されているので、女性の感情がそのまま投影されています。小説は小島監督の原案をもとにして野島一人さんが書き上げているので、男性目線の描写になっています。個人的には、レア・セドゥの演技のほうが共感できます。たぶん、男社会で大なり小なり気を使って生きてきた女性なら、このレアのムッとした演技が少なからず理解できると思います。小説のフラジャイルはオッサンが好きそうな都合がいい女の子の行動なんですよね。現実でこういう女の子がいたら、計算高いか、気を使ってリアクションしてくれていると考えたほうがいいと思います。FINAL FANTASY VII REMAKE のジェシーとかも、配信で「オッサンが好きそうな女性キャラクターやなぁ」となんども言っていたんですが、これと似たような感覚です。

フラジャイルはヒッグスと手を組んで、結果的に失敗しています。それと同じことを、ここでサムともやろうとしています。彼女が前回の失敗からなにを学んで、なにをどう変えてきたのかを描かないと、けっきょく男恋しさにまた適当に目についた頼れそうな男に言い寄っただけのバカ女になってしまいます。彼女がサムで失敗しなかったのは、目をつけた男がたまたまよかったからとしか今のところ説明できないんですよね。

ここの描写は、エルダーの移民の子設定は物語の奥行きが出ていいと思うんですけど、フラジャイルに関しては、追加された文章量に対して、キャラクターの厚みがまったく出なかったと感じます。小島監督はここらへん、社内の女性の意見をもうちょっと参考にしたほうがいいんじゃないかな。なんでもかんでもポリティカル・コレクトネスを意識すべきってことではなくて、リアリティがないご都合主義のキャラクターや展開を取り入れられると、陳腐さが出て急に冷めてしまうんですよね。弱い女を描くなということじゃなくて、弱い女を描くなら、男の都合がいい願望や妄想だけじゃなくて、その弱さに説得力がほしいんです。この話はまたカイラル・アーティストが出てきたときに掘り下げます。

同様に、ちょっと陳腐だったなと思ったのは、小説のエルダーが UCA に加盟した理由です。サムに昔話を聞かせたエルダーは、けっきょく孤立主義者として偉そうに国家を否定していたにもかかわらず、これまでブリッジズの配送端末を自分のシェルターに受け入れるなどして、生きるために中途半端に国家に甘えてきたのが自分の実情だと語ります。そうした甘えがテロを助長させ、都市を壊滅させたと考えていたようです。ブリッジズのシステムを少しでも自分のシェルターに入れた時点で、プレッパーズとしては負けだったんでしょうね。エルダーの思想は、自力で生きて、自力で死ぬことを意味しています。ただ、この世界では死体を放っておくと BT になるので、一人ではまともに死ぬことすらままなりません。エルダーは自分の死が近いことを悟り、さらに一人では死ねないことも悟りました。そして、自分の死体を始末してくれる UCA に全面降伏して協力を要請することにします。結果的に、サムがレイク・ノットシティを最初に出発する前に、プレッパーズを説得する策としてダイハードマンが話していた戦略でそのまま落ちたことになります。なんかちょっと拍子抜けです。反骨精神が強そうな人だったので、老いてももっと気概があるところを見せてくれるかと思って読み進めていたんですけど、こういうところもあってゲームでは移民の子設定がバッサリそぎ落とされたのかもしれません。たぶん、これをゲームで掘り下げるなら、配達するごとに過去の文書やメールが読めるみたいな形式じゃなくて、小さいイベントを用意しないといけないぐらいのボリュームになりそうですしね。

強化協力依頼

建設物の『強化協力依頼』ができるようになった。特に強化したい建設物を指定するといい。

ダイハードマン

エルダーのシェルターをカイラルネットワークに加えたことで、残るプレッパーズのシェルターはクラフトマンのところだけになりました。ここで自分が設置した建設物の強化協力依頼が出せるようになりました。指定すると、また別の北米大陸で同じように配達業務に勤しんでいるサムのところに指定の建設物が現れやすくなり、前倒しの完成が見込めるようになります。また、自分の世界に現れただれかの強化協力依頼物に素材を投入すると、通常より多めの「いいね」がもらえます。1周目ではまったく使わなかった機能ですが、2周目は発売からかなり時間が経ってのプレイなので、プレイヤーの数が減ってきていると思います。いい建設物が出にくくなっている可能性もあるので、もしかしたら今後使うことになるかもしれません。

クラフトマンへの配達依頼を受注するため、またエルダーのシェルターからレイク・ノットシティへ戻ろうと北上している道中で、エンジニアの落とし物をいくつか拾ったので、ついでにお届けしてみたら、親密度が上がってパワースケルトンとスモークグレネードを改良した Lv. 2を提供してもらえました。エンジニア様々です。パワースケルトンは装備することで増えるサムの積載量がさらに増え、バッテリーの消費量も抑えられています。スモークグレネードは煙がより広範囲に広がって、長く効果が持続します。ちなみに私は『デジタルデラックスエディション』を購入したので、ゴールドのパワースケルトンが作れるんですが、Lv. 1限定なので、一度もお披露目することなくお蔵入りすることになりました。レベルを気にせず選べるカラーリングだったらよかったのにな……。

エルダーのメール

ミュールの活動地帯を越えて、拾った素材を国道の舗装装置に放り込んだあとに、無事にレイク・ノットシティまで戻ってくると、ゲートを越えた辺りでエルダーからメールが届き、「UCA に加盟する意味はない」と言われてしまいました。ゲームのエルダーはあともうちょっと配達を続けて粘らないと UCA には加盟してくれません。

エルダーはメールでもまず配達してくれたサムに感謝の気持ちを述べる礼儀正しさを見せています。UCA に加盟しなくても、エルダーは今カイラル通信の一部の機能が使えるようになったことで快適な生活を送れているそうです。それで住民に満足されると不都合なのはサムとブリッジズ側ですね。そして、現場でその利害を被る下っ端のサムに勧誘の仕事の重圧がのしかかるという……。

小説によると、ブリッジズ第一次遠征隊が来てこの周辺の設備を整えてくれたとき、シェルターに引きこもっていても、プレッパーズの情報網を通じて手に入る地域の情報量が増えたとのことなので、カイラルネットワークに入るだけでも、ご近所さんと世間話をする程度の情報は手に入って便利なのかもしれません。それでも、流入する情報量が増えると、デマやウワサ、信憑性がない情報も転がり込んでくるので、けっきょくのところ、配達に来た人を捕まえて、意見を求めて参考にしたくなるという結果になっていたみたいですけどね。世界が変わっても、人の基本的な心理はそうそう変わりませんね。

エルダーの説得にはまだ時間がかかるので、次回はプレッパーズ最後の一人になったクラフトマンのお宅に配達に向かいま~す。

指さし クラフトマンに続く
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