前々回のプレイ日記で、このゲームを作った小島プロダクションが、じつは小島監督の古巣 KONAMI の人気作『サイレントヒル』シリーズの最新作を手がけているんじゃないかというウワサを紹介したんですが、確定申告と新型コロナウイルスに翻弄されているあいだに公式に否定されて、そのウワサもすっかり鎮火していました。

齊藤さんが「来週!」と言っていたのは、どうやら Death Stranding の PC 版の発売告知だったようです。PS4版にはなかったフォトモードが新たに追加されるそうですが、これは PS4版にものちのちアップデートで追加されるようです。PC 版独自なのはウルトラワイドモニターに対応したことで、画面が横長になったぶん、いままでの PS4版では映っていなかった両端まで広く見られるようになるそうです。ムービーシーンの絵の構図が変わったら、解釈の差も出てくる可能性がありますが、そこらへんも最初から全部考慮して創っていたのかな?

私は PC 版を買ってまでプレイ日記をやり直すかどうかは今のところ微妙だと考えています。予約も現段階ではしていません。ただ、『サイレントヒル』シリーズ最新作のウワサが公式に否定される際に、KONAMI が知的財産権を他者に譲渡する可能性や、将来的な最新作の製作までは否定されていなかったため、もし本当に小島監督がシリーズにリブートをかける最新作を創るのであれば、そのリリースが出た時点でお布施として買うつもりでいます。なんなら SONY と組んでウルトラワイドモニターとセット売りしてくれてもいいのよ。

と、いうことで、今のところ我が家は通常どおり、PS4版の2周目プレイ日記を続行します。前回初めてデッドマンと出会い、死に瀕した義母のもとにモルヒネを届ける任務を請け負ったサムは、別棟にある隔離室へ向かいます。初っ端の配達依頼は自分が落とした荷物を拾ってセントラル・ノットシティに向かうチュートリアルだったので、サムにとってこれがきちんと他者から依頼を受けて配達する初めてのミッションです。

このゲーム、わりと親切な設計で、ムービーシーンのキャラクター同士の会話で今後しなければいけないことやその背景を一通り話したあとに、もう一度念押しでデッドマンのような狂言回しのキャラクターが整理した内容を説明してくれます。人によっては煩わしく感じるかもしれませんが、それだけプレイヤーが迷子にならないように、もっと明け透けに言えばバカでもプレイできるように設計されています。配達荷物もどこかに置き忘れると、届け先で気付く前に赤文字で警告文を出してくれます。

モルヒネ配達開始

オープニングムービーの直後に挟んだチュートリアルと違って、この配達依頼からサムの操作が本格化してきます。まず配達荷物を背中の背負子に積む以外に、手に持つことができます。手に持つ動作はボタンを押しているあいだ続き、指をボタンから離すとサムも荷物を手放します。ケースを手に持ち続けたいのなら、プレイヤーもずっとボタンを押し続けるという縮小版の労働をサムと一緒にしなければいけない設計になっています。

私がこのゲームをしていて気になったのは、ボタン機能のレスポンスのスピードですね。このゲームはホラーゲームでもあり、シューティングゲームでもあり、ステルスゲームでもあり、配達ゲームでもあり、いろいろやれる機能が満載で、したがってひとつのボタンに割り振られている機能も単一ではありません。ゲームシステムがサムの置かれている状況によって「この動作がしたいならこのボタン」というふうに、画面中央下部に有効なボタンを表示してくれます。これ、ものによっては、この表示を待たないと発動できない動きもあり、それがこのゲームのプレイ感覚をワンテンポ遅れさせるストレスを生んでいるように感じました。

あとは、誤操作も生まれやすくなっていて、のちのち銃を持って敵と戦う機会があるんですが、敵の前に躍り出てショットガンをぶっ放そうとしたサムが、使い終わって捨てたはずの医療品のケースを大事そうにしっかりと手につかんでいて、そもそもショットガンすら構えられなかったっていう無様な死に方をしたこともあります。

ただ一通りプレイしてみると、ここらへんのストレスも込みでの労働プレイだったのかなという気もします。このゲームはなんだかんだ意図して設計しているんじゃないかなと感じる全体的な完成度の高さがあります。たぶんサムと一緒にストレスを感じながら小さな労働をやり遂げて、その小さな労働を積み重ねた末に達成感をもってエンディングを迎えるゲームプレイ体験が斬新なんだと思います。

届け先の隔離病棟にたどり着くまでに、デッドマンが基礎的な操作説明をしてくれます。最初は手元の手錠端末で確認できるマップの使い方です。印をつけたり、印と印を結んで線を引いてルートを指定したりできます。ルートを決めると実際にサムが移動する画面にも点線が表示されるようになって便利です。

私はルートの引き方がわからなくて、最初のほうはしばらくこの機能を使っていなかったんですが、物語の終盤に雪山をうろつくようになると、とくにろくな装備もない状態で雪山に入った直後は難易度が恐ろしいぐらいに跳ね上がるので、やっぱり必要だなと調べ直して使うようになりました。雪山ってマップをきちんと確認せずに歩き続けて、尾根に出るまでの谷を一本間違うと取り返しがつかなくなることが多いんですよね(そりゃそうだ)。

実際にルートを引いてみると配達のときは便利なんですが、都度きちんと曲がり角の印をうったところにサムが到達しないと消えてくれないので、あとから残ったルートを消す作業が発生したりして、使い勝手がものすごくいいわけでもないんですよね。だから、本当に雪山みたいな迷いやすい場所で使う機能だと思います。

マップの次がコンパスの説明です。私はてっきりボタンを押しているあいだだけ切り替えられる FPS 視点だと勘違いしていました。ろくに使ったことがないので、使おうとして間違えてサムが息をとめてしまいました。うっかり~!

この機能をあんまり使わなかったのは、だれかが建ててくれた簡易観測塔が要所要所にあって、あんまり自力で見渡す必要がなかったのと、見渡さなければいけないほどわかりにくい届け先もなかったというのが大きいんですよね。さすが、テストプレイをきちんと重ねてリリースされたゲームだけあります。それこそ未完成でリリース日を迎えてしまった不親切設計のゲームみたいに、地中に埋まって隠れているとか、入り口が遠く離れたところにあるとか、指定された場所に行ってもストーリーが進まないとか、いかにも「こんなん初見で気付かんやろ」と突っ込みたくなるシェルターや拠点はありませんでした。

三角形の隔離病棟を臨むホームストレートに入ると、サムが歩いてゆっくり後ろを振り返るジェスチャーをします。これは今後の配達でも見せるおなじみの動きなんですが、時間指定がある配達依頼だと「サム、最後まで気を緩めずに走って!」と毎度イライラしていました。今回も脊髄反射でイライラしたので、2周目もそんなサムにイライラさせられると思います。

目的地が見えてくると、イゴール大爆発で吹き飛んだセントラル・ノットシティがブリッジズ最大の拠点都市で、本部もそこにあったこと、爆発のとき、サムの義母であるストランド大統領が療養のためにそこを離れてここにいたこと、大統領と一緒にデッドマンを含めた要職の人間もセントラル・ノットシティを離れていたことをデッドマンが教えてくれます。この口ぶりから偶然セントラル・ノットシティにいなかったように考えられているようですが、実際はアメリ、つまり大統領自身が意図的に仕向けたことだと思います。

そんなこんなでデッドマンの話を聞きながら500m ぐらい移動して、無事にモルヒネを手に隔離病棟までたどり着いたサム。今まで丁寧に手で持ってきたのに、建物に入るムービーに切り替わると容赦なく背中に積むので思わずツッコんでしまいました。背負子に乗せるときにバチンと音がして火の粉のような粒子が散っているので、この整然と配達ケースを積める背負子のギミックもカイラル物質を用いたテクノロジーが絡んでいるのかもしれませんね。

ここは受付の端末がないようで、エレベーターでじかに地下までズケズケ入って行きます。突貫工事で造ったっぽいママーの研究所ですら端末があったので、ここはやっぱり本来人が訪れるようなところではない、徹底的に隠された場所なんですね。

エレベーターを降りるサム

ブリッジズのエレベーターを降りるサムの姿は、ゲーム中に各プライベート・ルームで休むたびに見られるお決まりの光景なんですが、フリーランスのポーター時代のサムでこの絵を見られるのは逆にめずらしい機会だと思います。

胸の「0914-137」という数字は、フリーランスの人材を管理するために割り振られたサムの ID みたいなものでしょうか? この数字に関しても、いろいろインターネット上に憶測が出回っていて、詩篇137篇の第9節が14単語でできていると指摘されています。

Happy is the one who seizes your infants and dashes them against the rocks.
あなたのみどりごを取って岩になげうつ者はさいわいである。

詩篇137篇は、バビロン軍に故郷を滅ぼされて、捕虜として異国に連行されたエルサレムの人々が故郷を思ってバビロンの川のほとりで泣く話で、締めくくりとなるこの節は罪深きバビロンの幼子を岩にぶつけて殺す残虐な復讐が「幸い」として描かれる、なかなか強烈な内容です。これは私刑を美化しているわけではなくて、バビロンが他国に侵攻して残虐な行為を繰り返すため、かならずその報いが己のもとに返ってくるだろうという、神のもとの秩序を称える内容になっています。ほかにはイザヤ書の第13章でこのバビロンに関する託宣が語られており、地上の罪人を断ち滅ぼすために激しく怒った神がこの地を荒らし、「彼らのみどりごはその目の前で投げ砕かれ、その家はかすめ奪われ、その妻は汚される」とされています。見出された罪人は、神によって仕向けられた別の敵対勢力の弓や剣の前に無残にも倒れ、他国を侵略していたバビロンの人々は散り散りになって自国に逃げ帰り、やがて麗しいバビロンの都もソドムとゴモラのように神に滅ぼされてしまいます。

サムの存在に因果応報の考えが絡んでいると考えるとちょっとおもしろいと思います。“infant”は乳幼児を意味する言葉で、ブリッジ・ベイビーを連想しますし、“rock”は言うまでもなく岩ですが、“on the rocks(岩に乗り上げる)”などの言い回しで海の「座礁」を意味する表現にも使われます。乳幼児を残虐に殺す、ひいては岩にぶつけて座礁させる(本来は死んだ母親とビーチに行くべき存在を半殺しのまま北米大陸につなぎ止めておく)アメリの残虐性あふれる行為を連想させます。その赤子がバビロンの子であれば、本来悪いのは絶滅体ではなく、人類がバビロンの民のような悪役ポジションであったことが示唆されているのかもしれません。サムについては、『なわ』の考察から羂索で衆生を救済する存在のように解釈していましたが、もともとは先祖代々の咎を受けて彼らの代わりに残虐に殺されることでカルマを解消するような存在だったのかもしれません。その姿には、罪を背負わない神の子でありながら人々のためにお手本として死んでいったイエス・キリストとの類似性もあるように感じます。

また、サムが北米大陸をつなぎ直すために利用したブリッジズの設備は、ブリッジ・ベイビーを犠牲に生み出されたものであることが作中示唆されています。バビロンの咎を受ける子供たちが、同じ境遇の子供からさらに追い詰められている図式を想像すると、残虐極まる印象を受けます。それだけ人類の罪は重いということでしょうか?

ブリッジズのエレベーター

ブリッジズのエレベーターは円筒形で、八等分の距離を空けてライトが点灯しています。イカよりタコの足の数かなぁなんて、なんとなく考えたんですけど、そう言えばブリッジズのマークにあしらわれているクモの巣のクモも八本足の生物ですよね。カニはタラバでもない限り十本足だし、やっぱりクモが一番つながりやすいかなぁ?

サムとデッドマン

サムがエレベーターで下層に到着すると、大統領の容態が思わしくないと医療従事者らしき人々が話し合いながら目の前を横切っていきます。そこに声をかけてくるのが、同じ赤色のコートを羽織ったデッドマンです。

小説版『デス・ストランディング』のこのシーンはデッドマン視点で描かれています。コードネーム同様、死と隣り合わせの生い立ちを持つ彼は、死ねない体質の帰還者であるサムにかなり関心を寄せていて、この出会いを密かに楽しみにしていました。医療研究者ということで、サムのことを研究対象の物扱いしそうな雰囲気もあるんですが、実際にサムに話しかける様子を観察しているとそうでもないことがわかります。握手の手を差し出したことをすんなり謝っていますし、大統領のことを話しにくそうに目をそらしながら説明しています。少なからず他人の心情を察して行動することができる人物であり、プレイヤーの分身であるサムのことを気にかけていることが伝わってきます。さすがヒロインですね。

私がこのシーンで一番気になっているのは、サムが「“彼女”?」といまいちピンときていない様子を見せることです。サムの亡き妻ルーシーの報告書を読むと、少なくともブリッジズから出奔する前のサムは、すでに大統領となっていた義母と一緒に新しいアメリカを築くとブリッジズの中核メンバーとして息巻いていたはずなんですよね。ゲームだとなにも知らないプレイヤーの代表としてすっとぼけたのかなという感じですが、小説版でもその不自然さをデッドマンが不安がっていました。

この男はサム・ブリッジズなのだろうか? サムならば、現在の合衆国大統領が女性であり、サムの親であることはわかっているはずだ。ならばこの鈍い反応は何を意味しているのか。サムではない誰か(サムワン)なのか。それとも、彼は自分がサムであることを否定したいのか。

小説『デス・ストランディング(上)』

デッドマンが指摘したように、単純にブリジットがまだ大統領を続けていたことを知らなくて、その上に過去を直視したくない気持ちが乗っかってこういうリアクションになったのかもしれませんね。あるいは、ゲームのメタ的な要素としては、もちろんデッドマンが言及する「サムワン」説も大いにあるでしょう。

ということで、デッドマンの後ろについていく形で、いよいよ親子が感動の再会を果たします。

指さし 末期がんとかそういう次元じゃない! に続く
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