ブリッジズ第二次遠征隊として、キャピタル・ノットシティから西のポート・ノットシティを目指して出発したサム。これまで順調に、最初の中継地点にあたる K2西中継ステーションまでたどり着いていました。そこで新たな配達依頼を受けた前回は、キャピタル・ノットシティを出発した際に、お知り合いになるのをうっかり忘れていた担当者のニック・イーストンさんにあらためて挨拶をしに、ちょっと東の出発地点まで戻っていました。無事に挨拶も済んだので、今回は K2西中継ステーションの先にある K2西配送センターへと進みます。

ストーリーを進めるために、K2西中継ステーションでサムご指名の配達依頼を受注します。依頼の詳細を確認すると、「K2西配送センターへレアメタル素材を最低30kg 配送し、カイラル通信を接続する。“素材”は、カイラル通信が繋がった後、稼働するカイラル・プリンターに使用できる重要なものである」となっています。サムは6個のケースに詰められたレアメタル素材を担いで、西配送センターへ向かいます。一つひとつのケースは小型の S サイズながら、トータル30kg って、すでに一般的な宅配便の上限ギリギリです。これで川も歩くのでさすがです。

ゲームのサムだと、これくらいならバランスもそれほど崩さないんですが、小説『デス・ストランディング』だと、「一歩踏み出すたびに、バックパックのストラップが肩に食いこんでくる。限界重量ぎりぎりの荷物を背負ったせいで、はやくも汗をかきはじめていた」とあるので、やっぱり肉体労働は甘くないようです。とは言え、サムは金属素材のような重たい荷物を持たされたことに逆に安堵していました。

サムは絶滅に瀕したアメリカを救うとか、北米大陸をつなぎ直すとか、大それた目標を掲げて第二次遠征隊になったわけではありません。彼は幼いころからお世話になったアメリという女性が困っているので助けてあげること、ひいては自分を縛る養家のしがらみから解放されることを願って、この国家存亡をかけた重大な任務を引き受けていました。それは極めて個人的な問題であり、利己的なものです。ここらへんは能力者としての力にも恵まれたデス・ストランディング研究家のハートマンが、失った家族を探すという個人的な問題を動機にしてブリッジズで働いている点にも似ています。

ところが、K2西中継ステーションのジョージ・バトンさんからは、民衆を救うために立ち上がった英雄、あるいは絶望の淵に立つ自分たちを助けにきてくれた命の恩人とでもいうように扱われたので、サムはただただ面食らってしまいます。中継ステーションをあとにしてから、厄介な荷物を押しつけられる「運び屋のほうが気が楽だ」とダイハードマンに通信で明かしています。やはりサムは“ポーター”ということなんでしょう。

K2西中継ステーションからK2西配送センター

K2西配送センターは、前にサムが渡ってきた大きめの川に沿って上流へ進んだ先にあります。位置的には養母のブリジット・ストランド大統領の遺体を運んだ死体焼却所のちょうど西にあります。じつはその遺体を運んだときに、時間を持て余したサムが先回りして足を運んでいた配送拠点です。前回は配送端末がロックされていて、門前払いされてしまいましたが、晴れて大切な第二次遠征隊となった今では歓迎ムードで迎えてもらえるでしょう。

依頼内容によれば、今回の配達距離は約1.1km です。10分ぐらい歩けば着く距離なので、配達人じゃなくても、それもたぶん都心に住んでいるデスクワークの運動不足の人でも、家から最寄り駅に出るぐらいの感覚で普段から歩いている距離なので、ゲーム内の北米大陸がいかに縮小されているかがわかります。たぶんこの東部エリアの最終目的地になっているポート・ノットシティまでは、キャピタル・ノットシティからでも5km ないんじゃないかなぁ。マップの形から実際のアメリカ合衆国に当てはめて距離を割り出してみると、日本列島まるまる1個ぶんの1,000km ぐらいはあるはずで、これを徒歩で歩かされると、ゲーム内のキャラクターを操作しているだけでもたまったものではありません。ゲームの北米大陸はやはり、プレイヤーの遊び心を維持する仕掛けのためにかなり縮小されていると見ていいでしょう。

小説のサムは、K2西中継ステーションから K2西配送センターへの道のりに3日ほどかけているので、せいぜい100km ぐらいだと思います。小説の北米大陸も確実に縮尺が小さくなっているのは、大人の事情か、それとも裏設定がなにか関わっているんでしょうかね? この世界は生まれたての世界だと小説でサムが以前に言っていたので、地球膨張説とかを採用していたりするんでしょうか?

簡易観測塔

K2西中継ステーションの南側、つまりサムがこれから向かう進行方向には、バトンさんが設置した簡易観測塔があります。観測塔は遠くまで見渡して、フィールドに落ちている荷物やアイテムをあらかじめ確認しておくことができるので便利です。収集アイテムのメモリーチップみたいな見つけにくいものも、これでぽっと見つかることがあります。キャピタル・ノットシティ前にあったイーストンさんの観測塔は、時雨にやられてもう使えませんでしたが、こちらはきちんと活用することができました。

そう言えば、K2西中継ステーションから出るときに、私が設置したセーフハウスをほかのプレイヤーが使った旨のメッセージが表示されて気付いたんですが、2周目でも1周目の設置物の共有状況がきちんと反映されるんですね。この後の納品画面でも、きちんとほかのプレイヤーからもらった「いいね!」が考慮された評価になっていました。じゃあ、やっぱり2周目のほうがちょっと有利に進められると思います。

K2西中継ステーション

簡易観測塔をのぞいて後ろを振り返ると、さっそく来た道に取りこぼしたメモリーチップが落ちていることに気づきました……。

また、K2西中継ステーションから青い煙のような筋が立ち上っているのが見えます。大統領の遺体を運んだときに、キャピタル・ノットシティの居住区らしき場所で見たのと同じ現象です。人がそこに住んでいて、生活に欠かせない荷物がある証拠だと思います。

ミュールの拠点と逆さ虹

進行方向に目をやると、オレンジ色のミュールと呼ばれる敵対者の荷物が見えます。ミュールの拠点も K2西配送センターと同じく、大統領の遺体をほったらかしにして散策しに来た場所でしたね。

ミュールはこれからサムが川沿いを南下する途中で遭遇する敵の一種です。先に遭遇した BT は幽霊の概念に近い超自然的な存在でしたが、ミュールはこの世界に生きている、れっきとした生身の人間です。サムが過剰防衛でうっかり殺してしまうと、きちんとネクローシスを起こして大爆発を引き起こします。この川上に向かって移動する K2西中継ステーションから K2西配送センターへの配達は、途中にミュールの拠点と BT の座礁地帯の両方があるので、ある意味、サムの行く手を阻む敵キャラクターの紹介も兼ねたパートになっています。

ミュールを簡単に説明すると、デス・ストランディング現象で精神に異常をきたして「配送荷物に執着するようになった人」です。げんにサムが配送荷物を持っていないときは、目障りなほど近づいて反感でも買わない限り、視界に入ったぐらいではわざわざ襲いに駆けつけてきたりしません。小説のサムは、一息に彼らの活動エリアを駆け抜けられなければ、わざと一部の荷物を落として、彼らがその荷物に夢中になっているあいだにそこを通り抜けるという対応をしてきたようです。エサに釣られる動物にちょっと似ています。ミュールとの戦闘でサムが負けても、荷物を剥がれて、拠点のはずれに放り捨てられるだけで、殺されることまではありません。彼らの目的はあくまで荷物を奪うことです。消費せず、物々交換の糧にもせず、ただ懐にため込んで独占することを目的としています。作中では「配達依存症」の成れの果てと表現されています。

今サムがいる東部マップの西側、ちょうどアメリカ合衆国だった領土のど真ん中には、デス・ストランディング現象が起こり始めたときに発生した大規模爆発で、大陸を分断するクレーター湖ができています。初期に起こった大規模な爆心地だったことから、作中では「グラウンド・ゼロ」と呼ばれています。サムが目指しているポート・ノットシティは、このグラウンド・ゼロ湖のほとりにあります。

デス・ストランディング現象が起きて、世界のあちこちでナゾの爆発が起きたとき、人々は混乱して、政府もまともに対応できませんでした。その混乱のなかで、現地の人間を助けようと、必要な物資を運んで活躍したのはサムのような運び屋たちでした。やがて彼らは荷物を運ばねばという使命感のほかに、英雄視されることで大きくなった自己顕示欲や、非常事態に荷物を所有することの充足感に苛まれて、荷物そのものだけに執着するようになりました。したがって、もともとはグラウンド・ゼロの近くによくいた存在で、そこから荷物を求めて、例えばこの K2西の中継ステーションと配送センターを結ぶ配送ルートのように、荷物が多く行き交うところに分布していった背景があるようです。

終末を迎えた『デス・ストランディング』の世界には、まともな政府も存在しないので、きちんと制定された通貨というものがありません。安定して使える通貨がないと、物々交換がどうしても主流になります。ミュールが荷物を独占し、リソースの不均等を起こそうとする様は、小説でも言及されていますが、今の格差社会の経済を象徴しているものだと考えられます。

ミュールは荷物を奪い、自分の手元にため込もうとしますが、その中身には頓着していません。自分が使うわけでもないものを、他者から奪って大切に懐にしまっておく様は、一見理解しにくい生態です。ただ、これが物ではなく通貨だったらどうかと考えると、まさに今の経済の問題と照らし合わせて考えられると思うんですよね。今の世界、とくにコロナ禍では、乳飲み子を抱えて、明日食べるものにも困っている貧しい母親がいる一方で、札束を燃やして暖をとれる富裕層もいます。恵まれた資産家は、生きるに十分な富をすでに持っているにもかかわらず、労働者階級の搾取によって、さらに富を築こうとする欲が強い傾向にあります。十分な貯金があると人は安心しますし、いくら貯蓄していても、人はもっとほしいと思うものです。お金には通常、人間社会で生活する手段やツールとしての価値以上に、社会的欲求や心理的充足感をもたらす役割由来の価値が上乗せされます。ミュールにとっての配送荷物は、私たちがお金に求める価値に近い魅力があるんでしょう。

興味深いのは、小説でミュールが「集団人(ホモ・ゲシュタルト)」と呼ばれている点です。「ホモ・ルーデンス」や「ホモ・ディメンス」に続いての「ホモ・ゲシュタルト(まとまる人)」です。「ゲシュタルト」はドイツ語で「形」などを意味する単語が語源になっていて、いろいろな要素が集まってまとまった状態を指す意味合いになっています。「ゲシュタルト崩壊」などと言う場合は、心理学の専門用語も絡んでいますが、きちんとまとまった認知の調和が乱れ、本来認識できるものができなくなることを指しています。全体に調和が取れた状態でまとまってグループとして活動するのは、ミュールの大きな特徴です。単なる衝動に突き動かされた強盗集団とはちょっと違います。小説ではむしろ、アリやハチの社会に例えられていて、身に着けるものの統一性や、ストイックに荷物だけを求める生活、そのためにはセンサーなどのテクノロジー機器もうまく活用する知能あたりを見るに、ちょっと軍隊のそれに近い匂いを感じます。

このミュールの集団社会、もしかしたら資本主義の企業に対する皮肉なんじゃないでしょうか? とくに従業員や顧客、法令遵守などは二の次で、利益の追求に終始する会社のことを指しています。ミュールのテントのなかには階級が存在して、同じミュールでも、荷物を奪っても奪っても満たされない搾取されるミュールと、荷物を奪う指示を出して成果を独占できる上級ミュールがいる可能性だって考えられます。もしそうだったら、日本は海外よりも「和を以て貴しとなす」精神が強いので、社会人として組織のなかで働いた経験があれば、大なり小なりサムの荷物を奪いにくるミュールの気持ちがわかるんじゃないでしょうか。

ミュールの語源についてはよくわかっていません。なにか英語で付けられた長い名前の頭文字をとった“M. U. L. E.”なのかもしれませんし、英語で“mule”と言えば、オスのロバとメスの馬を交雑させた家畜のラバのことを指しています。ラバは、ロバと馬のいいとこ取りをした優秀な交雑種として昔からよく知られていて、先日この『デス・ストランディング』の世界観に深く関わっていると紹介した古代エジプトでも家畜として飼われていたそうです。ひづめが硬く、足腰が丈夫で、睡眠時間も短く、馬より学習能力があるので調教が容易で、さらにエサが少ない環境でも生きていけることから、自身に繁殖能力がないにもかかわらず、昔からいろんな国で荷物を運ぶ家畜として重宝されてきました。

荷物を運ぶラバの家畜のイメージから、違法薬物を他国に密輸入する人のことを口語で“mule”と呼ぶことがあります。マフィアやギャングなどの大本となる大きな組織、あるいは現地の売人から大金を受け取る代わりに、スーツケースや自身の内臓の隙間に違法薬物を詰め込んで他国に持ち込む人とかのことですね。『デス・ストランディング』の世界のミュールも、ここらへんの運び屋と違法性のイメージを発展させた意味合いで名付けられたのかもしれません。

まあ、でも、日本語のカタカナで「ミュール」って言うと、普通は女性物のサンダルですよね。ミュールも独自アイテムの「ミュールブーツ」を持っているので、あながちシューズつながりでないとは言い切れません。ミュールはブーツじゃないけど、まあ……。

初めて簡易観測塔を使えたので、周囲をグルグル観察してみました。画面酔いする人には向かない動画かもしれませんが、じっくり見返すと、この世界の空が分厚い雲で覆われていることがよくわかります。小説によると、この雲はデス・ストランディング現象前のように風で運ばれることがなく、まったく別の法則と力学で形成されているそうです。ずっと見ていると、逆さ虹が出るスポットが、川の西と東の両方にあることがわかります。たしかに、逆さ虹は出たり消えたりを繰り返していて、光の屈折とはまたちょっと違うように見えます。視点の移動でけっこう角度が変わっているので、そこに見えない垂れ幕があって、ドレープかなにかの部分的な光の屈折だけが見えているように見えなくもないかな。いずれにせよ、太陽光が屈折したものじゃないのは確かなんでしょう。

ミュールの極超短波センサー

簡易観測塔から川上に向かって歩き始めると、すぐにミュールの活動拠点周辺に張り巡らされたセンサーが視界に入ります。小説には「極超短波のセンサー」と書かれているんですが、両岸にわたって広範囲にグルッと張り巡らされているので避けて通るのは簡単ではありません。ちなみに「極超短波(UHF)」とは、地上波のテレビや携帯電話などが該当する周波数帯の電波のことだそうです。短距離通信に向いていて、波長が短く、アンテナを小形化できるため、移動通信によく活用されているとのことです。こう、メカニック関連の設定が細かいのも、男の子のロマンが詰まっている世界だなと思います。

このセンサーが張り巡らされたエリアの内側に一歩でも足を踏み入れると、オドラデクのセンサーのような音波が拠点の中心から放たれてきて、配送 ID 付きの荷物がスキャンされてしまいます。このスキャンで荷物の場所が特定されると、ミュール連中が続々とその場所に集まってくるので、なんとか逃げなくてはいけません。

私が操作するサムが、のろのろと川岸の岩に足を取られて水から上がれずにいるあいだに、ダイハードマンが通信で、今はミュールの拠点に行く必要はないので、目的地に荷物を無事に届けることだけに集中しろといった旨の指示を出してきます。小説のサムも、ダイハードマンが指示を出すときに、「こいつ、こっちの都合はおかまいなしに、いっつも一方的にブリーフィングしてくんな」といったようなことを考えています。

けっきょくこの初回遭遇時のミュールは、サムの荷物を目前に、時雨が降ってきたことを受けて、BT を警戒して撤退してしまいます。この撤退シーンのムービーを観ると、彼らの出で立ちに統一感があり、リーダー格の人間が軍隊のように指示を出していることがわかります。未曾有の災害で精神的にやられ、落ちぶれてしまった強盗集団ではなく、自分たちの欲求を満たすために社会を築き、効率的に生活を営んでいることがわかります。

彼らが都合よく逃げてくれるのは今回だけで、次回以降の配送ではきっちり襲ってくるので、サムはこの配達ルートを通るたびに、力業で撃退するか、迂回することを強いられます。

藪に隠れるサム

ミュールをはじめとしたテロリスト系の人間の敵は、まさに小島監督作品といった『メタルギアソリッド』流の物陰に隠れてやり過ごす戦法が使えます。マップを下見していると、だいたい彼らの拠点周辺にこういう隠れられる場所が見つかるので、旧作品のファンへのサービスもあるのかなと思いました。

力業でゴリ押すときは、重要度の低いカイラル・プリンター用の素材が詰まった荷物を手に持って鈍器のように振り回すことが多くなります。物語が進むと、殺傷能力の有無にかかわらず、銃火器系の近代的な武器が手に入るんですが、今はまだそんなもの開発されていませんし、やっぱり現地調達できる鈍器の手軽さにはかなわないところがあります。今回もさっそく、どこかのサムワンが振り回して全壊させてしまった緑色の樹脂やセラミックの荷物が、やぶのそばに転がっていました。こういう壊れ物でも、たまに律儀にポストに届けてくれる人がいるので、Death Stranding の世界は本当にみんな優しいなと思うんですよね。

カイラル通信エリアをまたぐ道

K2西中継ステーションのカイラル通信エリアから外れるところに来ました。そろそろ座礁地帯が見えてきます。道ができているので、ミュールが歩いたところも道ができたかなとふと疑問に思ったんですが、よく考えたら前回手持ち無沙汰に散策しにきたことでできた道でした。思いっきり自分のでしたね。

K2西のキャッチャー

ミュールの活動拠点の先に広がる座礁地帯は、初回プレイ時に思いっきり捕まって、キャッチャーのところに連れていかれてパニクった思い出があります。ちなみにここのキャッチャーは、死体焼却所と同じ、クジラとかイルカのような海獣タイプです。目の前で派手にジャンプしたあと、頭が開いて頭足類の触手のように展開します。

ミュールと違って BT との遭遇はこれで二度目なので、ゲーム的にもそろそろ自力で対処しろよということなのかもしれませんが、慣れないと怖いし、なにしたらいいかまだわかんないし、荷物は傷むしで大変です。

キャッチャーとの戦闘時に出る建物

ここで BT に捕まってキャッチャーとの戦闘になると、一面黒いタール溜まりになったあと、今までまったく見えなかった建物がその底から浮き上がってきます。かつてこの地に築かれていた街ということなんでしょう。あの世の入り口であるビーチには時間の概念がなく、降り注ぐ時雨が触れたものの時間を高速に進めて、この世の時間の流れを狂わせていきます。デス・ストランディング現象で状況が悪化すると、過去の遺物までこうやって混在できるということを表しているんだと思います。カイラル通信で過去にやりとりされていた文書まで閲覧できる点にも通じる現象です。

乗り捨てられた車

ここの西側には乗り捨てられた車が並んで朽ちている場所があります。たぶんここはもともと都市部で、大きな道路でもあったところなんでしょう。実際のアメリカ合衆国の地図と照らし合わせて、テネシー州のナッシュビルあたりかなぁと思ったりもしていました。あそこは州間高速道路が周囲に放射線状に伸びる中心地ですし、ちょっとブリッジズを牛耳る女郎蜘蛛の巣に重なるところがあります。

配達失敗

せっかくなのでそのままキャッチャーに捕まって対消滅でも起こしてみようと思ったら、背中の荷物が壊れてしまって、先に配達失敗でゲームオーバーになってしまいました。なにげにこの画面、初めて見たかもしれません。ここの配達依頼って、失敗できないんですね……。

“ORDER FAILED”の文字からは4本の臍帯が垂れ下がっています。素直に読むと“DEAD(死)”ですよね。あえて4本にしている点から考えると、ここはクモの足の数説も有効かもしれません。ミッション失敗によって女郎蜘蛛の体が半分に引き裂かれたとか、そういう表現ですかね? 前の古代エジプトの死生観でも書きましたが、太陽神ラーと冥界の王オシリス、あとは生きた肉体を持つブリジットとビーチの魂であるアメリ、死ねない帰還者のサムと死者の国の女王アメリというふうに、この作品でたびたび見られる生と死で対になる構造が、サムの失敗で引き裂かれて死しかなくなったみたいな解釈です。

酩酊したときのように意識がゆらぐ。頭を覆ったフードを叩く雨音が、不規則に大きくなったり小さくなったりする。世界は遠近法を忘れた画家が描いた風景のように歪んで見えた。生者の世界と死者の世界が重なりあって、サムからあらゆる正常な感覚を奪おうとしていた。自分の身体と外界との境目がわからなくなりそうだ。

目をきつく閉じ、息を大きく吸って、身体感覚を取り戻そうとした。雷鳴や雨音ではなく、内臓が発する自分の身体の音に耳を傾ける。自分の身体は、ここにある。ふたたび目を開けると、意識も視界のゆらぎもなくなり、風景は正しい像を結んだ。

小説『デス・ストランディング(上)』

小説でこの座礁地帯に入ったとき、サムは死者の世界と生者の世界が入り乱れる感覚を覚えています。そして、自分の身体感覚に神経を研ぎ澄ますことで生者の世界の感覚を取り戻しています。肉体を持つことが、そのまま生者であることを意味しています。

サムが第二次遠征隊として持ち運ぶキーアイテムの Qpid が、なぜローマ神話の神の「キューピッド」という名前なのか以前に考えたことがあるんですが、キューピッドがギリシア神話のエロスと同一視できる神なら、まさに肉欲を司るわけで、エロスの肉体と対になるのは、プシュケーということになります。プシュケーはキューピッドの妻にもなった人間の女性の名前ですが、もともと「息」を意味する古代ギリシア語で、転じて生命や心、魂の意味を持つようになりました。この意味合いは、古代エジプトの「バー(魂)」の概念に似ていて、翻訳する際によく訳語として使われていたそうです。つまり Qpid は生者であることのこの上ない証しである肉体を象徴していると考えられます。

小説のサムはこの座礁地帯で BT に囲まれて、息をガマンし続けるうちに唇を噛んでまた出血しています。その血で BT を追い払うことができたので、自分の血になにか特殊な効果があるんじゃないのかとまた考えるようになっています。ゲーム内では見られない演出があったので書き加えておきます。それにしても唇からしたたるほど出血するって、かなりですよね……。

まあ、いくらアクション下手とは言え、私も2周目の今回はさすがに BT に捕まらずに座礁地帯を越えることができるようになっていました。でも根がズボラなので、何回か配達で行き来するうちに雑になって、こういうプレイはしなくなると思いますけどね。

ここの座礁地帯を抜け出せるぐらいまで進むと、またムービーが入って、今度は胸元の BB-28が自家中毒を起こします。ブリッジ・ベイビーはストレスがかかるとこうやって中毒症状を起こします。どうやらミュールに次いで休む間もなく座礁地帯に入ったせいで、まだ調整したばかりのサムとの接続では負荷が大きくなりすぎたようです。

初回はキャッチャーのもとに引きずられていったりしたので、「そりゃ赤子もストレスで引きつるわ」と思ってたんですが、ここはどちらにせよ、無傷で通り抜けても同じムービーが入るんですね。今回は物語上、かならず起こるようになっている中毒症状ですが、ゲームプレイの要素としても、きちんと BB-28のストレスゲージというものが画面左下に存在します。今後もプレイするなかで、BB-28がストレスを感じて泣き出したときに、ちゃんと安心させずに放置を決め込むと、どんどんそのゲージが減っていって、尽きると同じ自家中毒症状を起こします。この状態になると、ムービーと同じようにオドラデクが機能しなくなるので危険です。

BB は稼働負荷が限界にくると、体内で毒性物質を作り出して自分自身を攻撃しはじめるんだ。つまり、自家中毒を起こす。それを回復するためには、配送センターにあるプライベート・ルームに行ってくれ。

ダイハードマン

ブリッジ・ベイビーがなぜ自分自身を死に追いやろうとするのかは、今のところまだよくわかりません。子供が実際に起こす自家中毒は、エネルギー代謝の問題からくる症状ですが、ブリッジ・ベイビーのそれはちょっと違うように感じます。

K2西配送センター

デッドマンとダイハードマンの両方が「BB-28を救いたいなら、さっさと配送センターのプライベート・ルームへ行け!」と通信で急かしてくるので、言われたとおりに少し輪郭が見えてきた K2西配送センターへ急ぎます。そのシルエットはまさに「ナビオ」です。

以前にもあったバイクというか、トライクもきちんとありますが、今は乗れないので、ひとまず言われたとおりになかへ急ぎます。

前にも取りあげましたが、小説では BB-28の自家中毒に際して、「おれが西に行く理由のひとつは、おまえを延命させるためだった」とサムが考えていることがわかります。サムはアメリを救うため、自分のしがらみを断ち切るため、そして、目の前で廃棄待ったなしの状態に追いやられたブリッジ・ベイビーを救うために第二次遠征隊になりました。サムは利己的な理由で遠征隊の仕事を引き受けたことから、感謝されるたびに後ろめたい気持ちになっていましたが、彼が唯一、だれか他者のために尽くそうと起こしている行動があるとすれば、それはこの BB-28の保護だと言えるでしょう。新しい命を育もうとするお父さんなんですよね。だからデッドマンが事務的に「配送センターの設備でメンテはできる」と物扱いしたときにも内心、腹を立てています。

K2西配送センターの担当者はベンジャミン・ハンコックという名前だそうです。ベンジャミンはフランクリンっぽいし、ハンコックも大統領候補までいったジョン・ハンコックとか、南北戦争のめちゃくちゃ強い軍人上がりの政治家もいるので、政治家が元ネタなのかな?

ただ、地理的につながる感じがしないので、もしかしたらここら辺がナッシュビルという私の読みは外れているかもしれません。デス・ストランディング現象で地殻が歪みに歪みまくっていて、案外ここは地理的に東にあったはずのボストンとかあそこらへんなのかなぁ?

ベンジャミン・ハンコックさんを見ていると、昔に海外ドラマの『フリンジ』とかに出ていたジョン・ノーブルさんを思い出します。なんかちょっと雰囲気が似てるんですよね。

ベンジャミンさんは「中継ステーションのスタッフに聞いたよ。サム・ブリッジズ、第二次遠征隊だろう」と見慣れない配達人の正体を「伝説の配達人」とすぐに言い当てます。だれか、キャピタル・ノットシティのニック・イーストンさんにもメールを送って教えてやってくれ~!

BB-28が自家中毒を起こした Qpid 使用シーン

BB-28が自家中毒症状を起こしていることもあって、ベンジャミンさんとの会話はかなり簡潔に終わります。すぐに Qpid を使ったカイラルネットワーク接続シーンになります。これは前回の K2西中継ステーションでの接続シーンと基本同じですが、今回は BB-28が自家中毒真っ最中なので、ブラックアウトしたままになっています。ムービーを確認すると、赤ちゃんの笑い声が聞こえてきますが、小説のサムは「なんの反応も見せてくれない」と対照的なことを述べています。

カイラル通信が確立されたことで、ここの配送センターでもサムの装備や道具が作れるようになったそうです。加えて、いらなくなった持ち物をリサイクルして、カイラル・プリンター用の素材に還元することもできるようになりました。今まで時雨にやられて壊れてしまったロープ用パイルをずっと持ち歩いていたんですが、これでやっとおさらばできます。

前と同じように昔にやりとりされていた文書をまた閲覧できるようになったんですが、デッドマンが「地下にあるプライベート・ルームに行ってくれ。BB を保育器(インキュベーター)に繋ごう」と言ってくるとおり、まずはピンチのままグッタリしている BB-28を助けるところから始めます。

追記 追記
ここで K2西配送センターまでカイラル通信をつないだことで、過去にやりとりされたメール文書がまた閲覧できるようになりました。そのなかの一通が、第一次遠征隊の出発から少し経った2年前に、ダイハードマンがミュールについて語った内容なので、ミュールに初めて詳しく触れたこの記事にも追記しておきます。あとから読み返して考察材料にできることもあるかもしれません。

ミュールについて語るダイハードマンのメール

ミュールとドローン症候群
第一次遠征隊は、現在、西へ向かっている。配送と通信のインフラを構築するためにな。
想像できないかもしれないが、デス・ストランディング以前、世界は通信回線と物流網によって、繋がっていた。AI とドローンのおかげで、人が全く介在しない配送が実現するかと期待されていた。
だが、配送革命もシンギュラリティも起きなかった。その逆だった。人は無人化に耐えられなかったんだ。ストレスやオキシトシンの欠如で、ドローン症候群という症状に悩む人が続出した。
そして、ふたたび人が配送に関わるようになった。
配達人たちは、自分こそがシステムを支えているという使命感と高揚感によって、今度は、配達依存症と呼ばれる症状を発した。ワーカホリックの一種とも言えるが、しかし、デス・ストランディングで国や社会が崩壊したせいで、その症状はもっと進んだ。配達が自己目的化して、荷物に異常に執着する。
ミュールはこうして生まれたんだ。
ブリッジズは、配達依存症を生まないシステムをつくることを約束するよ。

ダイハードマン

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