10. 私も知りたい、その光

その光、なに?

「永遠なり……」からのこの高速フラグ回収はなんやったんですか? たぶんイレブン大覚醒なんでしょうけど、もうちょっと戦闘中にわかりやすい演出とか、それっぽい説明がほしいです……。なんか勝手に滅ばれてしまった脱力感が残ります。

このあともイレブンくんが手の甲の紋章をじっと見てセニカを助ける決断をしていたりするので、きっとここらへんのタイミングでいろんなフラグが立って、よくわからんけどイレブンくんの勇者機能が増えたと解釈していいんでしょうか?

11. ウルノーガに滅ぼされた国、プワチャット文明

今作の世界にはウルノーガが滅ぼしたとされる国がいくつかあって、一つ目が主人公の出生地であるユグノア王国です。16年前に勇者の誕生を機にウルノーガが大軍を率いてやってきて、混乱に乗じてこの際にデルカダール王に取り憑きます。

二つ目は先代勇者の仲間だったネルセンが建国したバンデルフォン王国で、およそ30年前に魔物の猛攻に遭って一気に滅んでいます。比較的最近のことなので、仲間ではグレイグや航海士のアリスちゃん、またシルビアちゃんのお母さんの出身地で、会話にもちょくちょく出てきます。神の民の里で聞ける話によると、バンデルフォンには勇者ローシュらが身に着けていたという貴重な武具などがネルセンによって保管されていたので、そのせいで狙われたかもしれないそうです。また、当時の国王アーサー王は名君として名を馳せた人物だったそうで、軍事力がウルノーガの脅威になった可能性もほのめかされています。イレブンくんの育ての親であるテオおじいちゃんが残したトレジャーハンターの記録では、作中で主人公たちも手にする虹色の枝に賞金を賭けて探していたらしいので、もしかしたらなにかに勘づいて動き出していて、それをウルノーガに察知されて先回りされた可能性もあるかもしれません。

三つ目が数百年前と、かなりアバウトなことしかわからないプワチャット文明です。バンデルフォンとユグノアは、魔物の軍隊を率いて一気に叩く感じですが、プワチャットは宰相になりすましてしばらく内部でなにかやっていたようです。クレイモランの古代図書館で読める本によると、プワチャットでは優秀な宰相のもと魔法道具の開発に力を入れていて、その結晶がまほうのカギとのことでした。だから、国力を利用して自分がほしいなにかをここで作っていて、用済みになったから滅ぼしたと考えるのが妥当かなと思います。おそらくデルカダールも勇者抹殺のために利用するだけして、用済みになったら滅ぼすつもりだったんでしょう。

プワチャット

プチャラオ村にある本によると、この文明は当時領土も広大だったらしいです。上の画像はメダチャット地方のプチャラオ村前にある遺跡の一部です。プチャラオ村が中国っぽいデザインなのに対し、遺跡はアンコールワットとか、ベトナムあたりの石造りの文明に近い印象を受けます。

ナプガーナ密林

ナプガーナ密林に残る柱や建物も石造りで、よく見ると同じ様式であることがわかります。現在のメダチャット地方だけでなく、ソルティアナ海岸をまたいで、イシの村や今のデルカダール王国の領域まで治めていた可能性があります。

メダチャット地方は地理的に、天空の古戦場に近い場所です。これだけ繁栄していると、ウルノーガが国政に関わりだしたときには平和だったんでしょうか? モンスターとの戦いに巻き込まれやすい場所ではあると思います。

プワチャット

遺跡の入り口には国章かもしれないマークがあります。少なくともこの建物の目的に関係するシンボルのはずです。丸が三つ、某ネズミを彷彿とさせるフォルムで並び、ツノのようなものが伸びています。

プワチャット遺跡

側面にまわると、ツメが生えた3本指のケモノの手のようなデザインの支柱があります。正面と同じマークもありますね。ザッと世界に残っている遺跡を見てまわった感じ、似たような造形はほかに見つからなかったので、これだけ象徴的に使われていると、プワチャット文明の国章か、この建物の用途に見合ったデザインだったんでしょう。

プワチャット遺跡

中央の屋根にも立体の飾りが乗っかっています。こう見るとますますあのネズミっぽいですが、ツノに見えたものはツタや触手のようなものにも見えそうです。

キラゴルド

私がこのマークを見たときにパッと思い浮かんだのは、カミュの妹のマヤちゃんこと、キラゴルドのデザインでした。前足というか手は5本指ですが、後ろ足は3本指でツメがあり、背中側から曲がったツノが伸びて、額にもツノがあります。また追い込まれて力が暴走するとツタのようなものが四方八方に伸び始めます。メルトアも自分の壁画世界でイバラを使役していました。

キラゴルド

マヤちゃんの兄であるカミュも、ビーストモードが使えます。わかりやすい職業のイメージは盗賊とかレンジャーですが、魔物使いも入っているんだなとサブクエストをやったときに思ったんですよね。

ここからは妄想ですけど、もともとプワチャットは魔物使いの文化が栄えていたんじゃないでしょうか? 古戦場に近くて戦になりやすいなら、敵のリソースを逆手にとって利用する文化が発達するのも自然な流れだと思います。その血をカミュ・マヤ兄妹が引いている可能性があって、そこをウルノーガに利用されたとか?

たとえばキラゴルド自身は物理攻撃に特化していて、呪文を駆使するイメージはありません。よく使うといってもバイキルト程度です。カミュも呪文がないわけではありませんが、物理攻撃の火力に特化している印象を受けます。プワチャットがもともと魔法に強い文化だったわけではなく、魔法文化が発達したのは、邪神の力を吸って強大な魔力を得たウルノーガが来てからだったりしませんかね。

ウルノーガの前身であるウラノスは、力を欲して勇者より邪神に味方することを選びました。力を欲するウルノーガが邪神の力に満足しきったあと、もっと魔力を高めるために魔法道具を開発しようとしたというのは自然な筋書きです。そのために利用した国が魔物使いの国なら、ウルノーガは純粋に魔力というより、なにか進化の秘法のようなこともやろうとしていたんじゃないですかね? 実際、メルトアはウルノーガを「創造主」と呼びます。セリフから察するにメルトアは二次元の壁面から現実世界に出て、塗料となる獲物を自ら呼び寄せる力をウルノーガから授けられたようです。少なくとも本人からすれば、新しく生まれ変わったと言えるほどの進化をメルトアの原形モンスターに与えたということがうかがえます。ウルノーガの関心が、ウラノス時代から引き継がれた自分自身の力の追求から、魔王然とした自分の配下に入るモンスター軍団を作ることに移行し始めたことの表れじゃないでしょうか? 逆にここで必要な手駒をそろえたからこそ、バンデルフォンとユグノアを圧倒的な軍力で一気に潰せるようになったとも考えられます。

ウルノーガ

それと、魔道士ウルノーガはウラノス時代に比べて明らかにモンスター化しています。いつこの姿になったのかはっきりしませんし、吸い取った邪神の力の影響と言えばそれまでですが、もしかしたらプワチャット時代にある程度完成した進化の秘法みたいなものを自分にも施していた可能性があるかもしれません。この服、魔道士装備っぽくありますが、プワチャットの宰相ですって言っても通じそうなデザインですし、プワチャット潜伏中に魔道士ウルノーガの原形が固まった可能性はあると思います。

魔王ウルノーガ

魔王になった姿を見ると、こちらも三つ指のツメという特徴が出ます。ただちょっと足が鳥っぽいかな。勇者の力を奪えたらこんな姿になってやろうとか、自分に最強の部下が6人いたらこんなのとか、「オレの考えた最強モンスター」みたいに構想していたなら心は少年ですね。

意匠

天空魔城のドアにも、イバラがモチーフっぽい装飾があります。上の赤い宝玉を中心に羽根が左右にのびたようなマークは魔王の紋章のようです。キラゴルドの手の甲にも色違いのものがあります。羽根はたとえば邪悪な封印が施された渡り廊下の円形部分を支えるピラーなど、城のほかの部分にもモチーフとして使われているので、やっぱり魔王には鳥の要素がありそうです。ほかはツノとか骨っぽい無骨なモチーフなんですけどね。そう言えば、シルビアちゃんが鳥苦手ですよね。

ニズゼルファ

足が三つ指と言えば、ウルノーガに力を与えた邪神も三つ指っちゃ三つ指なんですよね。邪神の肉体は魔王よりももっと親指が反対側にまわった鳥足の形をしているんですけども、圧倒的セル感とエスタークにも通じる鎧のような外骨格感が前面に出ているので鳥感は薄れます。

精霊(魂)形態だと触手も伸びてますし、邪神は基本的に邪悪なモンスター全般の生みの親ですし、細かいことはまったく関係なく、もとから全部邪神の力の影響という一言で片付けることもできると思います。

モモンジャ

それに、こんなこと言い出すとももんじゃもツメがある三つ指だし、イレブンくんのお父さんに取り憑いていたバクーモスをはじめとするライオンヘッド系モンスターもそうなんですよね。ライオンヘッドは合成モンスターなので、辻褄を無理矢理合わせようとすればウルノーガが作った云々でいけますが、バクーモスのほうは邪神が主と言い切ってます。なので、このプワチャット推理は完ぺきな私の妄想です。

いずれにせよ、ウルノーガが邪神の力を得たあと、プワチャットで暗躍しているあいだ、次の勇者が生まれてこなかったところを見ると、邪神が与える力をケチったか、力の器の問題なのか、ウルノーガが邪神と同等の脅威と見なされていないことがわかります。イレブンくんは、道中で嫉妬心をこじらせた魔王がやたらと絡んできただけで、やはりもとから力を取り戻しつつある邪神復活にタイミングを合わせて地上に遣わされたのではないでしょうか。

しかし、ウラノスとの約束を反故にせず、きちんと力を分けてくれるニズゼルファって、けっこう義理堅い神様なのかもしれません。『ドラゴンクエストビルダーズ』のやみのせんしを見ていると、ローシュを倒したあと、邪神の体から引き出した紫のオーラが1冊のムフフ本(「人妻ヨッチのセクシーショット袋とじで魔力大覚醒!」とか)になって、「ふざけんなッ!」とかいうオチも否定できないのに。

12. 勇者の条件

『ドラゴンクエスト』シリーズのヒーローである「勇者」という職業には、さまざまな条件があります。神に祝福された者しかなれない場合もあれば、ダーマの神殿で転職して条件を満たせば誰でもなれる世界もあります。明らかに選ばれし者感があるこの世界の勇者は、具体的になにが条件だったんでしょう?

ユグノア王家の血筋

ユグノアの血筋は勇者ローシュの血筋であり、勇者の血統でなければ勇者になれない理論です。血統の重視はロトシリーズでよく見られます。

大樹の好み

勇者になる宿命を背負って生まれてきたからという理由ですべてが説明できる先天的素質が絶対理論。

先代勇者ローシュの魂

今作はフタを開けてみれば、主人公が生まれ変わりと言われていた先代勇者が邪神のトドメを刺し損ねて味方にやられていたことが露呈します。ローシュ本人、つまり魂レベルで同一人物である転生体しか勇者になれない「勇者はローシュのみ」理論です。

私が気になっているのは、けっきょく主人公とローシュが同一人物なのかどうかというところです。最初は勇者が死してなお不死鳥のように蘇って、自分の前世の尻拭いをしながら仲間と一緒に成長していく物語だと美しいなと思ってプレイしていました。そのほうが勇者の成長がわかって、けっして諦めない勇者の物語らしかったんですよね。

でもクリアしていろいろ情報を整理し始めた今は、イレブンくんが本当にローシュの尻拭い専門の代理バッターのように見えてきました。主人公は冒頭から何度も「勇者の生まれ変わり」と言われています。雰囲気が似てるだの、目に宿るあたたかい光が同じだの、そんな類のことも言われていたと思います。だからそれを肯定するのは簡単です。なので、逆に別人じゃないかと疑う根拠を以下に挙げます。

預言者がだれだかわからない

魔王に勇者の力を奪われてから、主人公はジャコラに襲われて海に落ち、生死の境をさまよいます。そこで預言者だと名乗る人物に出会います。正体はローシュを裏切ったウラノスです。預言者は「この姿が気に入らないようじゃな」と、頭を叩いて次々と姿を変え、見る者のイメージによって自分の姿が変わると説明します。でもイレブンくんが見るのは、どこの町にもいそうな普通の人間ばかりで、ウラノスにたどり着けません。そのうちウラノスは「おぬし、わしのことを知らんようじゃな」と言って考え込みます。

この解釈は、本当に知らないか、預言者が言うようにまだ時期じゃないから思い出せないのか、イレブンくんにとって必要ないから転生時に忘れてきたのか、いろいろ推測できると思います。そもそも前世のことをそうやすやすと思い出すのが普通なのかという疑問もありますし。

でも、私は預言者が考え込んだところを見ると、本当はウラノス側はこのタイミングで相手に気づいてほしかったんじゃないでしょうか。暴走したもう一人の自分がいよいよ世界を滅ぼして、また勇者を殺そうとしているわけですから、気づいてもらって、腹を割って話すことで進めたい駒があったんだと思います。でも、いざ覚悟を決めて接触したら親友の魂じゃなかったから、「まだ時期じゃない」と言って勇者の力が目覚めるようにしか支援できなかったとか? 実際、あとで自分の正体を明かしたとき、個人的な謝罪もちゃんとなかったですよね。ウラノスの善の心なら言いそうなもんなのに言わないのは、謝りたい相手がローシュで、イレブンくんじゃなかったからじゃないでしょうか?

あっさりセニカとは別の女とくっついた

ロトの勇者の女はけっこう重要だと思ってるって、先に書いたんですけど、イレブンくんが本当に初代主人公の前世で、エマちゃんが運命の相手なら、彼女もルビスの祝福を受けた女なわけで、転生してもローラ姫になってくっついてきて、2の主人公たちがやがて生まれるというのが私の読みなんですよね。けっこうシリーズの物語の根幹に関わる伴侶です。

一方で、ローシュとセニカの関係もかなり運命的に描かれています。ローシュはセニカに一目惚れして、今作のエンディングだって、二人が千年の時を超えて再会するところで終わるんです。二人の勇者に、それぞれ運命的な女がいるのはちょっと不自然な気がします。イレブンくんが本当にローシュの転生体なら、もっと早い段階で本能的にセニカを探しに行ってるような気がしますし、セニカもセニカで出会ったときにもっと複雑な反応をしてくれたっていいんじゃないでしょうか? いくら転生したら厳密には同一人物じゃないって言っても、頑張って恋人が生まれ変わって迎えにいったら、もうちょっと迎え方あると思うんです。

ルビスは3でようせいのふえを使って助けても、初対面のように振る舞います。わりと塩対応なのに何回もくどいほど自己紹介するところはエマちゃんと同じです。「私よ! このアレフガルドの大地をつくったルビスよ!」ローシュとセニカが3の勇者につながるなら、11でルビス関係者と接点がないほうがここらへんの辻褄が合うんじゃないでしょうか。

それぞれ違う勇者につながるエンディング

エンディングの解釈は人それぞれですけど、イレブンくんに対する聖竜の説明のあと、スタッフロールを挟んで一区切りさせてから、ローシュとセニカを再会させて3の冒頭を見せるという順番の手法は、それぞれが別の勇者に転生する、あるいは子孫が勇者になることを示唆しているように私は感じます。イレブンくんがローシュの転生体なら、セニカが時間を巻き戻したときに同じ魂のローシュに戻るか統合されるのが自然かなと思います。今作のエンディングにそういう描写がなかったんですよね。

もっと言えば、セニカに渡したイレブンくんの勇者の紋章は、ローシュの手を取っても消えたり、統合されたりしませんでした。この二つの紋章が、同時に存在できる別の勇者の異なる力であることの示唆じゃないでしょうか?

できあがる勇者のつるぎが違う

ローシュが過去に作った「勇者のつるぎ・真」は大樹の魂に安置されており、イレブンくんが取ろうとした矢先にウルノーガに奪われてしまうので、しばらくまともに使うことができません。そのあいだにイレブンくんはマイソードを自作します。

ローシュの剣は邪神の闇の衣をはがせる対邪神兵器です。イレブンくんの勇者のつるぎにはその機能がありません。少なくともある描写が見られません。その代わり、道具として使うことでつるぎの光が味方の悪い状態異常を治してくれます。改良すると攻撃時に一定確率で相手に有利な効果を打ち消してくれます。どちらかと言えば、味方をサポートする特徴のほうが強く出ています。

ただ、邪悪なものを退治する力がないかというと、魔王ウルノーガの天空魔城に張られた闇の結界はしっかりと破れます。必要なことはしっかりできているので、イレブンくんがローシュに劣っているから真と同等のものを作れなかったというわけではないと私は解釈しています。だいたいイレブンくんも真を持てばその力を存分に引き出せるわけですし、最終的にマイソードも改になって威力が真を上回ります。私はむしろ作る勇者に必要な特徴が出るようになっている印象を受けました。

勇者のつるぎはだれにレシピを教わるでもなく、素材のオリハルコンと道具のハンマーをそろえて専用の鍛冶場に行けば勝手にイベントで勇者が作り始めます。仲間も一緒に打つので仲間の違いが剣の違いを生むのではないかと考えましたが、だとしたらベロニカの存在の有無で性能が変わらない説明がつきません。ベロニカがセーニャに含まれている可能性も考えれば仲間の影響はまったくないと言えませんが、大きな因子ではないのかもしれません。勇者のつるぎは勇者の力の権化です。勇者の力を表しているとすれば、ローシュとイレブンくんの勇者としての力の根本的な違いが剣に現れているのかもしれません。

ローシュの使命は邪神を討つことです。イレブンくんはエンディングを見るになんとなく、世界の平和を脅かす魔王を倒すことか、あるいは仲間の和を取り戻してローシュにもう一度引き継ぐことだったような気がします。イレブンくんの邪神討伐はそのための手段です。だから聖竜はローシュより重い使命を果たしたイレブンこそ、まことの勇者であるとしたんじゃないでしょうか?

ローシュの剣は時のオーブを割って歴史を修正しても折れることがありません。歴史をどれだけ修正しようと、正史でいつの時代でも必要とされている“真の勇者のつるぎ”だからのような気がします。私の仮説では、イレブンくんは中継ぎの代理バッターにしか過ぎません。彼の力はローシュにバトンを返すためにあります。歴史を見ればピンポイントでしか必要とされておらず、もっと言えば歴史の修正で本来消えるべき勇者の力です。それがオーブ割りで折れる剣に象徴されているような気がしました。

ローシュとイレブンくんが同一かどうかを私が気にするのは、けっきょく同一じゃないならどこかにローシュが存在する可能性があるからです。セニカは時の番人となり、ウラノスはウルノーガと預言者に分かれ、ネルセンは魂だけになって試練の里に留まっています。逆に言えば、この3人の魂の正確な生まれ変わりは存在しません。でも、セニカが勇者のつるぎを大樹に返したことで勇者の魂も大樹に還ったのなら、ローシュの魂だけはどこかで転生している可能性があります。イレブンくんがローシュでないなら、ローシュの魂はイレブンくんが冒険しているあいだ、どこでなにをしていたんでしょうね?

13. 仲間の意味と母の重さ

私は仲間の存在が本作でとても重要なポイントだと考えています。そもそもローシュは4人パーティーで不和を起こし、使命を果たすことに失敗しました。それを引き継ぐのがイレブン8人組で、合計12です。最後にセニカに時のオーブを割らせることで、時計の針が一周まわってまたローシュと仲間が新しいスタートを切れることを象徴しているような気がします。たまに出てくる16刻みパターンの紋章は、やり直した4人をさらに足した数字かもしれません。ロウが冥府で描く大樹の紋様は、4つの太い針が四方に伸び、その後ろの隙間を埋めるように12本の細い針が等間隔で配されていました。悲願を達成したローシュ4人と、そのために必要だった過去の自分を含む12人分の人生を示唆しているのかもしれません。

私はイレブンくんについてくる7人の仲間は、なにかしらローシュたち4人の特徴やカルマのようなものを少しずつ引き継いでいるんじゃないかと考えています。先代勇者の話は物語の最初からちょくちょく出てきますが、イレブンくんが時のオーブを割って過去に戻ってから、邪神が最終ターゲットになると急激にストーリーに絡んできます。唐突すぎてとってつけた感が否めませんが、それまでにローシュたちの物語を、じつは自分の仲間たちを通じて見ていたと考えると全体のピースがうまくハマる気がします。

アリスちゃん

だから仲間は今のまま増えなくていいけど、ゲストで一緒に戦ってくれるキャラは増えたらおもしろいなって思います。アリスちゃん、好きなんですよね、私。たとえば船で敵に遭遇したときにだけ一緒に戦ってくれて、そのときにだけ見られるシルビアちゃんとのれんけい技とか、物語が進んできたら打ち解けてきたみたいな感じで、グレイグが難しいとくぎを覚えればバンデルフォンゆかりのれんけい技を一緒に出せるようになるとかあったら、もっと主人公たちがいろんな人に支えられてる感出ていいと思うんですよね。

今作、仲間以外のキャラクターでは母親の存在感が過去作に比べてかなり大きいと思います。聖地ラムダのローシュの伝説にしても、キリスト教かと思うような母子像が飾られています。イレブンくんの母親も特別な存在で、オープニングで息子を逃がすために亡くなっているにもかかわらず、途中で魔王に力を奪われた息子がもう一度勇者の力を取り戻せるようにしてくれたりと、重要な役割を果たします。

ペルラの教え

ネタバレイトショーでも取り上げられていましたが、育ての親であるテオの「人を恨んじゃいけないよ」精神を引き継いだペルラの教育は、かなり主人公に大きな影響を与えているはずです。

これからも同じようなことはきっとある。だから今から言うことを覚えておいて。どんなにイヤなことがあっても、苦しいことをされても、ただやり返すのはカッコ悪いことだよ

きちんと相手と向き合って話し合い、お互いの気持ちを理解した上で握手をして和解すべきだと諭す母親。これは目の前の子供が、親友に裏切られて志半ばで息絶えた人間の生まれ変わりとしてこれから生きること考えると、かなり大きな意味を持つと思います。

ここらへんは時代とともにリーダーシップというものが変わってきたことも関係しているような気がします。イレブンくんは2017年の勇者です。ローシュは3の勇者を踏襲しているので、1988年の勇者です。日本はバブル崩壊直前の好景気に沸いていて、なにもしなくても日本の経済はこれから勝手によくなると信じている人が当たり前にいました。米国はソ連と冷戦を続けながら世界の警察然としてイラン・イラク戦争などの他国の争いに積極的に介入していましたし、緊迫した世界情勢のなかの核兵器を持った者勝ち感も今より強かった時代です。全体的に派手で、民衆を牽引する、これぞという圧倒的なヒーローの力が好まれる傾向がありました。イレブンくんの今の時代は、それだけではやっていけません。先進国の経済が頭打ちになり、大国にも細かな根気と忍耐と協調性が求められるようになりました。個性と多様性の受容が必須となり、圧倒的なマジョリティの正解がない摩擦のなかで自信の喪失や差別による内紛も生じるようになりました。周囲との和を保ち、みんなで成功できるようにすること、自分の個性を打ち出し、相手の個性を認めること、多様性のなかで自分がいかに輝くかを思案することが今の時代には求められています。映画作品も、単独ヒーローものは下火になり、今は『アベンジャーズ』のような個性派ヒーローがそろって反発と協力を繰り返しながら共闘するストーリーがウケるようになってきています。みんな正解よりも自身を投影できるヒーローを求めていて、理解される実感を欲しています。そこに絶対的な答えはありません。有無を言わせぬヒーロー感で前を進むローシュは、嫉妬に駆られた親友に背後から切りつけられて死にました。イレブンくんは同じことを繰り返せません。

そもそもローシュの最期の映像では、仲間4人がけっこうバラバラに行動していたことがわかります。本当を言えば、守備力が一番高そうなネルセンが前に出て盾になり、連携する形で勇者が攻撃を仕掛け、呪文組はその後ろから攻撃および支援をするのが王道の陣形のはずです。状況から判断するに、ローシュ組の陣形はローシュがかなり先行して邪神をほぼ一人で追い詰め、ちょっと遅れて打たれ弱いはずの魔法使いのウラノスがさらに単独で追いつき、視界に入らないほど離れたところからだいぶ遅れて盾のネルセンとヒーラーのセニカが追いつく形になっています。ゲームでは「ここはオレに任せて先に行け!」という状況が普通にあるので、仲間の支援があってローシュが前へ出た可能性もありますが、私はなんとなく、ローシュが自分の力を振りかざして、単独で突っ走るタイプの勇者だったんじゃないかと思います。それこそ1988年に美化された圧倒的なリーダーの力です。今トランプが必死で取り戻そうとしている偉大なアメリカ像のように、“America First”の“Hero First”版で、あとの仲間は脇役になってしまい、差別だなんだと各地で暴動が起きてしまうアレです。そもそも「オレのことはいいからお前は先に行け!」という状況なら、邪神の明らかな甘言にのるような信頼関係じゃないと思うんですね。

それを考えると、今作のれんけい技も重要な存在です。イレブンくんはどのパーティーメンバーとも器用に技を繰り出します。時のオーブを割るときも、自分のことを心配して引きとめる仲間ときちんと話し合って、納得してもらってから行動を起こしていました。ローシュとはちょっと違う印象を受けます。

イレブンくんに求められていたことは、イエス・キリストのような果てしない器の大きさだと私は思います。右の頬を打たれたら左の頬を差し出しなさいみたいな。耐え忍び、相手を責めずに赦しなさい。イエスは穢れを知らない神の子でありながら、かくあるべきという手本をまわりに示すために必要のない洗礼を受け、人と同じ苦しみを味わい、誘惑に打ち勝ち、弟子の裏切りを予見しても逃げようとしませんでした。悩み苦しみながらも神が求める模範であり続けることを選び、そしてみんなの贖罪を果たすために命を落とします。それでも死してなお不死鳥のように蘇り、裏切った者、自分のことを見放した者を責めずに、ただそばで少しのあいだ同じ時間を過ごして去って行きます。イエスは弟子の裏切りを予見し、自信をもって否定する弟子が自分の弱さに気づけるように導きました。ローシュは裏切ったウラノスに「なぜ?」と問いかけています。親友の変化を察知して、理由を問うまでもなく事前に対処できるようになることがローシュに必要な成長のはずです。この成長がなければ、ローシュは不死鳥のように蘇れません。イレブンくんはそういうことができる人間に育てられたと思います。

実際、イレブンくんの懐が狭ければ、世界崩壊後の気まずいグレイグとの二人旅は失敗に終わっていたかもしまれせん。このときもペルラの教育的な助言が大きく響いているので、ペルラの存在はかなり大きいと思います。グレイグがいなければイレブンくんの使命を果たせなくなる可能性も高くなります。なかなか自分の非を認められない相手の弱さを受け入れて、責めずに根気強く付き合いながら関係を築くことができるのは、イレブンくんの大きな武器なんでしょう。

母親という点で仲間を見ていくと、みんな共通して生母が不在であることがわかります。育ての親でも、逆にペルラのような存在はイレブン組ではめずらしいのかもしれません。それどころか両親ともにいないキャラも多いです。ただ、早世でも母親の影響がしっかり描かれているキャラも少なくありません。

カミュ

両親ともに不明の孤児で、クレイモランのバイキングに奴隷同然でこき使われながら育つ。妹の親代わりだったが、呪いのアイテムを渡してしまったことで妹の体が黄金化し、唯一の肉親を不幸にして助けられない無力感と責任から逃げるように盗賊稼業に身を落とす。相棒だったデクは、盗賊としてはちょっと抜けたところがあるが、商才に恵まれている。

ベロニカ&セーニャ

聖地ラムダの静寂の森に捨てられていたところを拾われ、大きな使命を背負った運命の双子として、子供に恵まれなかった夫婦に育てられる。ベロニカのあとをセーニャがついていく形になることが多い。愛情のある家庭で育ったことはわかるが、ペルラのような人格形成への影響はいまいち見えてこない。精神的な面では、ある意味ベロニカがセーニャの親代わり。

シルビア

母親はソルティコの名門騎士の家に嫁いだバンデルフォンのスター。幼いころに亡くなったが、専用グラフィックの肖像画がソルティコの実家に飾られており、使用人からエピソードを聞けるなどの特別な扱いがある。シルビアの騎士より芸の道を進む選択は母親の影響が大きそうである。また、優雅さや繊細さは母親譲りと言われている。仲違いしていた父親が息子の選択に理解を示すのも、息子のなかに亡くなった妻のなにかを見ているからかもしれない。一人っ子。十代のころに家出してサーカスへ。それまでは父親から騎士の英才教育を受け、グレイグをしのぐ才能を見せる。

マルティナ

自身がデルカダール王家に生まれた第一子で一人っ子にして跡継ぎ。母親はメダル女学園で教育を受けたあとに王家に嫁いだが病弱で早世。イレブンくんの母親であるエレノアが母親代わりだったので、イレブンくんを弟のように思っている。子供時代にユグノアで魔物の攻撃に巻き込まれ、世間的に死んだことにされてしまう。ずっと踊り子の振りなどしてロウと世界を放浪していた。ウルノーガに取り憑かれた実の父親とは16年間疎遠で、ロウがある意味父親代わり。

ロウ

亡国ユグノアの引退した先王。三人兄弟の末っ子。イレブンくんの実のおじいちゃん。すでに高齢のため親の情報は出てこないが、幼齢のころは王家のしきたりに従って、祖国を離れてドゥルダ郷でニマ大師のもと修行しながら過ごした。妻は城下町の本屋の看板娘でムフフ本にも寛容。イレブンくんが生まれた時点ですでに死別している様子。16年前の悲劇で娘とムコを死なせてしまったと悔いている。孫息子のイレブンくんが唯一残された肉親。実質マルティナの育ての親。

グレイグ

バンデルフォン出身だが、子供のころに魔物に国を滅ぼされてみなしごに。実の両親の話は出てこず、兄弟がいた描写もない。あまり当時のことは語りたがらない。デルカダール王に育てられ、父のように慕っていたが、盲目的に信頼しすぎてウルノーガに取り憑かれていることに気づけなかった。子供時代にソルティコに住み込みで修業した経験からゴリアテ時代のシルビアと面識あり。ただしシルビア相手でもバンデルフォンのことはほぼ話さなかった。昔は暗いと寝られないなどの気弱な一面もあった。幼なじみのライバルはホメロスだが、すれ違いで溝が深まり、気がついたときはすでに手遅れで救えなかった。邪神討伐に向けてシルビアの父の指示で修行を積むことで異質なシルビアの乙女気質にも理解を示せるようになり、ホメロス相手にはできなかった信頼関係をもとにしたれんけい技ができるようになる。

本当に正直に書くと、今作プレイしている最中は佳境に入るまで、仲間と会話できるシステムは世界観を掘り下げるためのおまけ演出に過ぎず、特定のキャラにハマったオタクが妄想材料にできるように撒かれたエサだと思ってました。でも、今はマメに仲間と会話しなかったことをちょっと後悔し始めています。会話でポロッと意外な設定を仲間が話すことがあって、それがローシュ組メンバーのメタファーぽかったり、イベントと組み合わせて考えると線がつながったりすることが少なからずあったんですよね。2周目はしつこいぐらい話しかけて、もうちょっと表現方法とか言葉選びとかまで考えられるようにしたいです。

14. グレイグについて

グレイグはイレブン組で一番わかりやすいキャラクターだと思います。試練の里でネルセンと出会ったときに「とても他人のようには思えなかった」とあとで言いますし、ネルセンもバンデルフォンゆかりの者がいることをサッと言い当てて、勇者の仲間になるのは運命なのかもしれないとほのめかしたりしています。目の前に魂があるので厳密な生まれ変わりではありませんが、勇者の仲間としてネルセンの象徴となるのはグレイグで間違いないと思います。ネルセンの装備をそのまま装備できるのもグレイグです。

ネルセン装備

赤ピンクの仁王立ち盾おじさん完成です。ところでこの装備、けっこう変態装備だと思います。

ネルセンはローシュ組のなかで一番地味なキャラなので、特徴をつかみにくいんですが、邪神を封印してからも次の勇者のために試練の里を用意したり、律儀にみんなの装備を集めて守ったり、豊かな国を作って民を幸せにしたり、自分も霊体として里に残ったりと、いろいろきっちり準備してみんなのために役立とうとする実直な性格がうかがえます。

ネルセンがあがなうべきことは、味方内に裏切り者がいたことに気づかない無知じゃないでしょうか? イレブンくんがウラノスの裏切りを知ってからイゴルタプ長老に話すと「そんな予感はしてた」というような発言をします。薄々勘づいてはいたけど、決定打がなかったから疑わずに信じるほうを選んだという感じのようです。

ウラノスが裏切った現場は、倒れたニズゼルファの体の上でトドメを刺そうとするローシュと、後ろから急襲するウラノス以外の姿は見えませんでした。ローシュを殺したウラノスは邪神から力を吸うとすぐにその場から姿を消してしまいます。その後、セニカとネルセンが追いついて、邪神の上で息絶えているローシュを発見します。この状況だと、悲しいかな、見るほうに良心があるほど、“仲間の一人は遺品も肉片も残らないほど邪神の強烈な攻撃でやられてしまい、残されたもう一人の仲間がなんとか相討ちに持ち込んだ”ような状況にも見えると思います。

試練の里で、裏切り者のウラノスがセニカとローシュと同じように並んで設けられているところを見ると、ネルセンは少なくとも存命中、ウラノスの裏切りにずっと気づかなかったんじゃないでしょうか? 知っていたら、なにかしらもう少し試練を区別したと思いますし、イゴルタプ長老にも知らせていたはずです。そういう鈍さは、父と慕ったデルカダール王の変化にずっと気づかず、本来自分が盾となって守るべきだった勇者を追いやり続けたグレイグにも重なります。今作のデルカダール王は実質ほぼウルノーガであり、もともとはウラノスです。グレイグはイレブンくんと冒険するなかで、少し時間がかかったものの、自分の過ちに気づき、勇者に謝罪しています。本来勇者の盾となるべきだったネルセンの代わりに贖罪を果たしていることになるんだと思います。

また、時のオーブを割ったあとの邪神討伐シナリオでは、自分にとって異質な存在であるシルビアちゃんの乙女気質を師匠の指導のもと認めることで、「におうだち」などの盾としての本格的なスキルも覚えるようになります。一度決めたらなかなか考えを曲げない頑固さはネルセンの長所であり、短所でもあったということは書物からもわかる話なので、グレイグはそういった点でもネルセンの代わりに成長を遂げているのだと思われます。逆に言えば、ローシュの最期の映像で、ネルセンがなぜ前にいなかったのかを考えると、彼が仲間との絆をうまく築けずにパーティー全体を守るスキルに目覚めておらず、それが結果的にローシュの悲劇にもつながったと考えることもできると思います。

ホメロス

グレイグはホメロスとの関係も象徴的です。私はこちらの関係がローシュとウラノスの破綻した関係を表しているように感じました。ホメロスはグレイグばかりが賞賛を浴び、自分が日陰者になることを指して、「オレの前(先)を歩こうとする」とグレイグに何度も繰り返し言い放ちます。表現としてはこれだけでも言いたいことは十分伝わりますが、これは「ローシュの最期」の映像を見ると、そのままわかりやすいと思います。

一歩前へ

倒れたニズゼルファの肉体の上にローシュが立ち、トドメを刺そうとしたとき、カメラはニズゼルファの足下から移動してきますが、そこに人影はありません。それくらいウラノスとは離れていたんでしょう。ローシュが剣を振り上げたとき、背後のどこかで親友がまさに「世界の半分をお前にやろう」と同系列の誘惑に駆られているわけですが、ローシュは自分のやるべきことに夢中で、本当に助けを必要としている親友のことになど気づきません。邪神の甘言にまんまとのったウラノスは、背後からローシュを刺して邪神の代わりに息の根を止め、倒れたローシュの横を通って、このときやっとローシュより前へ進み出ます。そして邪神の圧倒的力を手に入れて、かつての親友のことなど振り返らずに去って行きます。

置き去り

グレイグとホメロスの関係は、ウラノスの裏切りが、かならずしも加害者の心の未熟さばかりに起因するものではなく、被害者であるローシュの身から出たサビであることも示唆しているように感じます。グレイグは劣等感に苛まれ始めたホメロスに、ほんの少しだけでよかった気遣いをまったくと言っていいほど見せられず、溝を深めてしまいました。

ホメロスは「愛も夢も光も、そして友も……。この世界ではなんの意味も持たない」と、チカラの重要性を強調し、自分を認めてくれる魔王への忠誠を口にします。のちに魔王自身もイレブンくんたちが先代勇者一行と同じまなざしをしていることを指し、「愛、希望、夢……くだらぬ幻想にしがみつき、しぶとくももがき続ける人間どもめ!」と、きれいごとを否定する発言をしています。二人は親友との関係のなかで傷つき、絶望した者です。言うなれば、赦しを必要とする迷える子羊です。魔王ウルノーガがラスボスになれないのは、こういうところだと思います。人の苦しみや悲しみを糧とするゾーマや、破壊衝動だけのシドー、闇こそが至福のニズゼルファは、本能的にこうしたことを求め、それがないと生きていけません。ウラノスやホメロスが本当に必要だったのは自己防衛や自己肯定のチカラではなく、大事な人間に理解してもらえる赦しで、至極人間的な人間なんだと思います。

15. 人魚のロミアが意味するもの

イレブンくんが大樹に行くために必要なオーブ集めをしているなかで、恋人を待ち続ける人魚ロミアのお願いを聞くイベントがあります。このイベント、かなり物語の重要なところを意味しているような気がします。

ロミアは嵐で遭難した漁師の男を介抱するうちに恋に落ち、種族の枠を越えて結婚の約束を交わします。ところが一度故郷に戻って準備をしてからまたかならず帰ってくると約束したキナイ・ユキというその恋人がなかなか待ち合わせ場所に来ないので、様子を見に行ってくれと頼まれます。言われた漁村へ行くと、キナイ・ユキはすでに死んでおり、二人が約束を交わしてから50年も経過していることがわかります。人魚は500年生きるそうです。

村一番の漁師だったキナイ・ユキはロミアと出会う前から村長の娘と許嫁の関係にあり、ロミアと一緒になるには関係の清算が必要でした。人魚と結婚すると妄言を言い出したキナイ・ユキは反発にあい、「人魚に魂を食べられた」とさげすまれ、村の裏の寂れた浜に閉じ込められてしまいます。やがてその浜で、キナイ・ユキはかつての許嫁のダナトラが、生まれたばかりの赤子を抱いて自害するところに遭遇します。ダナトラは婚約を解消したあと、ほかの男と結婚したものの、ひどい嵐で父親と夫を同時に失い、生きる気力を失っていました。村ではダナトラの悲劇を「自分の男を奪われた人魚の呪いだ」とするウワサまで流れていました。

俺だけ 幸せになるなんて できない。

俺だけ 幸せになるなんて できない。

なんとか赤ちゃんだけ助けたキナイ・ユキは、自分の行動でたくさんの人が不幸になっていることを改めて痛感し、愛するロミアと結ばれる自分の幸せを諦めて、せめて目の前のダナトラの子だけでもちゃんと育て上げることで罪滅ぼしをしようと決断します。また、「人魚は人間の魂を食らう」と人魚を差別する都市伝説を自分からもあえて流し、自分のような男が二度と現れないようにしています。私、これに関しては全部女に汚名を着せずに済むやり方があったんじゃないかと思うんですけど、あえて最後に男のズルさをにおわすことに意味があった気がします。

キナイ・ユキは浜の小屋でロミアの絵を描き、ロミア宛ての謝罪の手紙を添えて、ロミアのために用意した花嫁のベールを握りしめながら独りでこの世を去ります。イベントではダナトラが残して、キナイ・ユキが育てた娘の息子、つまりキナイ・ユキとは血のつながらない孫息子で、同じ名前を持つキナイが登場します。キナイは祖父のせいで自分が母親とともに差別を受けてきたため、人魚の話を持ち出す主人公たちを最初邪険に扱いますが、事実を知って徐々に態度を軟化させていきます。

ロミアにはキナイ・ユキのベールだけを渡して、じきに本人が来るとウソをつくことも、もう死んでいると本当のことを伝えることもできます。本当のことを伝えると、キナイ・ユキの墓に近づくために陸に上がり、最後の挨拶を終えると、そのまま海の泡となって死んでしまいます。

約束

ロミアの想い人はキナイ・ユキ、ただ一人です。キナイでは代わりになりません。私はこの人魚の関係を、時の番人となったセニカの象徴だと考えています。人知を超えた長い時間、ただ愛する男を待ち続ける異種族の女と、もうこの世を去って戻らない想い人、そして想い人によく似た、同じ勇者であるイレブンくんは、セニカにとっては他人であり、ローシュの代わりにはならないことを意味しているんだと思います。

ロミアはキナイ・ユキの左手を両手で握って「ずっとここで待っている」と言いながら、一度故郷に戻るキナイ・ユキを送り出しています。今作のエンディングでも、ローシュと再会を果たしたセニカは、ローシュの左手を両手で持っています。

左手

キナイとキナイ・ユキは、血のつながりはありませんが、村の人によるとどちらも優れた漁師だったらしいです。手にその仕事ぶりが現れています。左手は勇者のアザがあるほうの手で、ローシュとイレブンくんの明確な共通点です。

蘇る人魚ロミア

ロミアが特別セニカを象徴している根拠として、魔王退治後に時のオーブを割って過去に戻ると、たとえロミアに本当のことを伝えていても、また生き返っている点が挙げられます。イレブンくんが過去に戻ってやり直すシナリオは、魔王討伐ではなく、邪神討伐が最終目標になり、先代勇者と仲間の関係が深く関わってきます。セニカはローシュを想って待ち続け、ローシュとの再会を果たし、ローシュの子の母とならなければいけません。そのことを象徴しているロミアは、この時間軸では死んではいけないということなのだと思います。ローシュがもう迎えに来ないことを悟ってセニカがあとを追う展開はあり得ません。

16. マルティナについて

ロミアのイベントで率先して前に出てくるのは意外にも恋愛にクールそうなマルティナです。イベント中ずっと主人公の横について進行に関わってきます。

マルティナ

協力してあげようと主人公に呼びかけ、断ると蹴りを寸止めするというアグレッシブな抗議に出ます。

マルティナ

これについては、デルカダール城のグレイグの私室に置いてある『英雄王のヨロイ』の話が絡んでいると私は推測しています。

人魚の姫君に連れられて、英雄王がやってきたのは海底中のチカラ自慢が集まるムウレア尾ヒレ相撲、春場所でした。「わたくしのお父さま、海王セレヌドスに尾ヒレ相撲で勝つことができたなら、わたくし、アナタと結婚いたしますわ」こうして始まった海王と英雄王の真剣勝負は、両者ごかくでまったく引かず、1週間たっても決着がつきません。そんな英雄王の強さを海王はたいそう気に入り、姫君との結婚を許したうえに、とても貴重なお宝を英雄王にくれました。それこそが『英雄王のヨロイ』の材料となる『赤き海王のウロコ』だったのです。しかし一度決めたら曲げられないのが英雄王。勝負に勝つまで人魚の姫君と結婚はできないと、姫君の手をふりきって海底を去ったのでした。

英雄王はネルセンのことです。あのグレイグが装備できる赤ピンクの変態鎧の説明です。普通に読んで、伝説の装備のレシピをほのめかしているのかと考えていましたが、該当のウロコが作中手に入ることはありません。この本はむしろ、マルティナがネルセンを想って待ち続けた人魚姫の生まれ変わりであることを示唆しているのではないでしょうか?

悪女マルティナ
悪女マルティナ

マルティナがグレイグに好意を抱いていることは、世界崩壊後にブギーのもとで魔物化して少々理性が吹っ飛んだときの行動によく出ています。その後の戦闘で、四六時中グレイグに誘惑攻撃を仕掛けて、お尻を擦り寄せていました。何度も試したわけじゃないですが、あの戦闘はかなりグレイグに対する攻撃率が上げられていたように思います。少なくとも私のデータではグレイグの頭にずっとハートマークが浮いていて、シルビアとロウはほとんど存在無視状態でした。たぶん本当はグレイグのことをイヌにしたくてしかたないぐらい好きなんだと思います。

マルティナ

ロミアにキナイ・ユキがじきに迎えに来るとウソをつくと、マルティナはまるで自分のことのように、本当のことを言われたら死んでしまうと主人公の判断を支持します。

生きるには心の支えが必要……。たとえそれがどんな形であっても。

ロミア

マルティナは前世でロミアと同じように待ち続けて、ネルセンの魂を追って転生して、やっと似た魂を持つグレイグを見つけたのかもしれません。そう考えれば、バンデルフォンが滅んで、グレイグがデルカダール王に引き取られたのもまた、運命だったのかもしれないですね。マルティナの魂が人魚と関係しているなら、ブギーを倒したあとにマルティナが合流したとき、彼女がマーメイドハープを持っていることは、単に進行上必要だからという以上に辻褄が合うことです。また、装備可能武器がヤリとツメでありながら、足技に重点を置いた演出が多い点にも意味が出てきます。

マルティナ

マルティナに色ボケのイメージがないのは、幼少時代に弟同然だったイレブンくんを手放して死なせてしまったと思い込み、その後悔から守る側になることを強く意識して16年間過ごしてきたからだと思います。ひたすら待って恋に生きる女が、守るべき者を見つけて強く成長したあとで合流するので、逆にロマンチストな面が意外に感じるのかもしれません。

この16年、マルティナは守るべきものを探す旅を続けてきました。……つらいこともたくさんありました。我が身の悲運を哀れんだこともありました。だけど、その日々の果てに、かけがえのない大切なものを見つけたのです。お父さまに、ロウさま。愛する祖国。優しき民たちと、信じられる仲間たち。……そのすべてが生きる、このロトゼタシア。私は守るべきものを見つけたのです。……誰のためでもありません。私は、私の大切なものを守るため戦うのです。

忘れられた塔

ところで、唐突ですけど、マルティナってちょっと外見のイメージがセニカに似てませんか? ブルネットの長いポニーテールで、おっばい美人ってだけかもしれないんですけども。目元は人魚の女王のセレンさまに似てると思います。

時の番人になったセニカがいる忘れられた塔で、ちょっとマルティナの紋章っぽい模様を見つけました。マルティナの紋章は蝶々っぽくて、初登場時のグロッタの仮面武闘会で着けていた仮面そのままの印象だったので、正直ちょっと安直と思ってたんですけど、なんか別の意味があるのかな?

ロミアがセニカを象徴しているなら、前世が人魚説のマルティナもセニカと被るところがあるかもしれません。セニカはローシュのことが大好きだったので、想い人は違えど、マルティナのロマンチックなところはセニカの女の部分を反映しているなんてことはないでしょうか? また、セニカは賢者でもスティックを使うあの様子からは後方でサポートをするタイプのように見えます。セニカに悔いが残っているなら、なぜあのローシュが死んだときに自分がそばにいてやれなかったのだろうというところじゃないでしょうか? マルティナは自ら攻撃に打って出て、守りたい人を自分で守ろうとする女です。それは16年前にイレブンくんを実際に失ったからこそ、自力で成長を遂げた結果であり、マルティナはそういう点でセニカの代わりに成長を遂げて、贖罪を果たしているのかもしれません。きっと長いあいだ愛する男を待ち続け、やっと再会を果たした先で、今度は自分で大切な人を守ろうとする女の成長を象徴する存在なんでしょう。

マルティナ

いつだったか、たぶん魔王戦前だったと思うんですけど、最終決戦目前というタイミングでマルティナが仲間会話で「一人で戦おうと思っちゃダメ」みたいなことを確か言っていたと思うんです。「仲間を頼って協力するのよ」みたいな感じの助言です。これを読んだとき、さすがお姉さんだなって思ってたんですけど、もしかしたら逆にセニカの「こうしてほしかった」という気持ちが根底にあるのかもしれません。

マルティナはセニカを送り出したあとに、微笑むグレイグとツーショットで映って、「愛する人に……会えるといいわね」と言います。セニカが時間を巻き戻して無事に邪神が退治されたら、もしかしたらネルセンと一緒になれるかもしれません。エンディングのイシの村で、マルティナのその後の言及は実名が出ず「デルカダールの王女」という肩書きを使った表現になります。時間軸が巻き戻って、マルティナの魂がネルセンを想う人魚姫に戻っていたら、このデルカダール王女はもうマルティナじゃない可能性だって考えられます。

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