久しぶりに偶然面会することになった義母の臨終に立ち会い、その遺体を担いで一人で山腹の死体焼却所で火葬し、前回のプレイ日記で無事に義母が残した組織の拠点に帰ってきた配達人のサム。何度も堪忍袋の緒や生命の危機にさらされる怒濤の配達ミッションを乗り越えて、サムはここでしばし休憩をとることを許されます。ブラック企業にもそれくらいのお慈悲はあるのだ!

眠りサム

シャワーを浴びてこいと言われてブリッジズのプライベート・ルームに通されたサム。体の汚れを落とすどころか、着替えもせずにベッドに倒れ込むと、そのまま気持ちよさそうに目を閉じます。間違いなくベッドがタールまみれ。ベッドに汚れを持ち込んでも平気な男は結婚するとたいてい苦労するぞ。

サムが眠ると子供のころの夢を見始めます。黒いビーチはイゴール先輩が対消滅を起こした大爆発後にサムがたどり着いたビーチと見た目が同じです。ここはアメリのビーチなんでしょうね。アメリのビーチの空にはエンディングで5人の人影が浮いています。サムが結び目に行く前に見た光景と一致します。

普通こんなビーチをこんな靴で歩けば、ヒールを砂浜にぶっ刺しながら、ヨロヨロとぎこちなくサムに近寄ることになるはずですが、アメリは優雅にサムの前に登場します。何度も書きますが、これだけとっても普通じゃありません。

ブリジット・ストランド大統領の養子として育てられたサムは、多忙な母となかなか母子らしいコミュニケーションがとれず、アメリのビーチで過ごすことが多かったとゲーム内の妻の診断書に書かれています。サムはブリジットよりもアメリに懐いているお姉ちゃんっ子でした。義母亡き今、サムの家族と呼べるのは義姉のアメリだけです。その想いが夢に出たのかもしれませんし、ゲームの流れから言えば、このあとアメリは母の跡を継いで新しい大統領としてサムの前に現れるので、その伏線にもなっていると言えます。サムも薄々、次の大統領がだれかわかっていると思います。

ドリーム・キャッチャー

ビーチで一人泣いている子供のサムに、アメリはお手製の「ドリーム・キャッチャー」を渡します。これは妻の対消滅を経て家族と一悶着した末に、義母が立ち上げたブリッジズから出奔して家族との関わりを一切絶ったあとも、サムが大切に持ち続けている代物です。過去のプレイ日記を振り返ると、イゴール大爆発回でも取りあげているほか、ちゃんと最初から背負子にくくりつけて持ち運んでいることがわかります。

はい、『ドリーム・キャッチャー』よ。眠れないときにつけて。私が悪夢から守ってあげる。

アメリ, DEATH STRANDING

サムが律儀にドリーム・キャッチャーを捨てずにいたのは、家族写真を大切に持っていたのと同様に、心のどこかで家族とのつながりをすべて否定できなかった証拠としてとらえることもできますが、アメリが言う「悪夢から守ってあげる」も可能性のひとつじゃないかなと考えています。

ビーチで泣くサムはたしかに子供ですが、プレティーンぐらいには成長しているように見えます。悪い夢を見て怯えて泣くような年齢とはちょっと思えないというのが正直なところです。

物語の終盤で能力者でもない地質学者が重度のカイラル物質の中毒症状に見舞われ、恐ろしい世界の終末の夢を見続けたと語ることがあります。彼は夢の恐ろしさを訴え、あんな目に遭うなら能力者になんかなれなくていいと言い切ります。サムの妻も、特殊な能力者であるサムの子を宿した際に似たような症状に悩まされ、パニックやうつのような精神疾患を起こして死亡しています。能力者のほか、あの世に近づく中毒者が見る「絶滅夢」は、自死に追い込むほど人の精神をどうしようもなく蝕むものなのだということがわかります。サムもきっとそれに悩んでいたんでしょう。それを見たアメリ、ないし同一の存在であるブリジットは、母親として苦しむ息子を助けるために、絶滅体の特殊な能力を発揮して、悪夢を取り除く、あるいは自分がその悪夢を肩代わりする効能を持つアイテムを与えていたのではないかと考えられます。サムはもしかしたらこのドリーム・キャッチャーを捨てたくても手放せなくなっていたんじゃないでしょうか。

この説がもし正しければ、アメリとブリジットは絶滅夢が人に与える影響を十分理解していたと考えられます。サムの子を宿した妻がその症状に悩み始めたときに、サムのドリーム・キャッチャーのような具体的な解決策を提示しなかったのは、ある意味なかば故意に、サムの子を宿す特殊な妊婦に対消滅を起こさせたかった本心もあったのではないかと疑いたくなります。

また、ドリーム・キャッチャーを渡すアメリの胸元にはまだネックレスがないこともわかります。私はこのシーン、アメリがサムの夢に干渉してきた結果ではなく、サムが昔の夢を見ているだけの回想シーンだと思っているんですが、その根拠はここにあります。

アメリは昔から時間の概念がないビーチに存在していて、それ故に年をとらないと説明されてきた人物です。何年経ってもその印象が変わらないとほかの登場人物にも言われていますが、ここでネックレスが時系列を示す大きな差となって登場しています。ネックレスはサムからの贈り物です。これはきっと、サムという特殊な生い立ちと性癖を持つ人間が、絶滅体に大きな影響を与えたことの示唆なんじゃないでしょうか。血のつながりがなくても、自らの運命と対になる子育てを体験することで、絶滅体のなかに変化が生じたんでしょう。

ドリーム・キャッチャー

「いつも繋がっている」は、前回サムの実父であるクリフォード・アンガーも BB-28が接続時に見せるビジョンでサムに訴えかけていた言葉です。アメリ、ひいてはブリジットは、実の親と同じようにサムとのつながりを主張しています。彼女は生命を滅ぼす存在でありながら、サムの親になろうとしていました。

アメリがサムに与えたドリーム・キャッチャーは、いびつな五角形をしています。5はアメリのビーチに浮く人影の数であり、サムの配達人としての評価項目の数であり、おそらくこの物語の根幹に関わる数字だと思われます。その点、このドリーム・キャッチャーはかなり象徴的です。

ドリーム・キャッチャーはアメリカ先住民のオジブワ族に伝わる魔除けの伝統品です。夢をからめ捕る糸は、ブリッジズのマークと同じ蜘蛛の巣がモチーフになっています。このドリーム・キャッチャー、よく見るとどうやって糸がひっかかっているのか不思議な部分もありますね。その超自然的な糸の張りかたも絶滅体ゆえの技なのかもしれません。

中央にある金色のパーツはおそらくカイラル結晶でしょうね。カイラル物質はあの世から流出してくる物質です。巣の中央にいるクモのことであり、ドリーム・キャッチャーの定義通りにまわりの糸が悪夢をひっかけるものなら、むしろ糸が中央のクモの悪い部分を押さえ込んでいる構図でもあると考えられます。蜘蛛の巣の糸には捕食者の残虐性と、捕食者の凶悪性を押さえ込む二面性があることが示唆されており、エンディングのアメリの独白で判明する本作の物語の縮図にもなっています。

一般的なドリーム・キャッチャーは編み目の下に羽根がぶら下げられている特徴がありますが、アメリのドリーム・キャッチャーには羽根がなく、代わりに五角形の角に革ひもがくくりつけられています。これはおそらく棒と縄の縄なんでしょう。縄はいいものを引き寄せる道具であり、不動明王が衆生救済ために左手に持つ羂索であり、人と人との絆を意味するストランドです。死体収納袋に入れられたブリジット・ストランド大統領も、生前頭に巻いていたスカーフを同じ形で左肩にくくりつけられていました。

亡き母の感謝

そうやって推測していくと、気になるのが右下の革ひもがついていない角です。5がアメリのビーチに浮く人影につながるなら、五人のうち一人が縄を持っていないことの暗示かもしれません。これも私の妄想のひとつでしかないんですけど、ブリッジ・ベイビーとしての生涯を一度終えたサムが、アメリにビーチで拾われて帰還したことでほかの能力者も生まれるようになったという話から、首にかける長い革ひもがサムで、フラジャイル、ハートマン、ママーとロックネ姉妹、ヒッグスといった能力者を五角形が象徴していて、救いのないヒッグスが革ひものない角である説があるかなと思いました。亡き父の思い出と彼が残したビジネスを大切にするフラジャイル、今でもビーチで家族を探すハートマン、双子の絶大な絆と二人の子とも言える赤子を持つママーとロックネ姉妹に比べて、ヒッグスは家族の思い出もつらいものしかなく、ビジネスパートナーのフラジャイルを裏切って、崇拝していた絶滅体のアメリにも最後まで救われることがなく、自死を選んで幕を下ろすという孤独な人生を送りました。彼だけ他者との絆がありません。

エピソード 2 “アメリ”

短いアメリの夢が終わると、物語はエピソード2『アメリ』に突入していきます。やっと本格的にゲームプレイが始まる気配がしてきました。

サムのお目覚め

ベッドから起きるサム。いつの間にか死体処理班のスーツは脱いでいますが、体は汚いままです。よくあんなに汚れたまま熟睡できますね。目を閉じてから途中でスーツを脱げるほど目が覚めたんならそのまま軽くシャワーを浴びるぐらいはしそうですけどね。

ブリッジズの手錠端末は装着時に針で刺したような痛みがあったという小説の記述があるんですけど、起き抜けのサムみたいに手錠を緩めてるときは痛みの原因との接触はないんでしょうね。それでもちゃんと睡眠状態を記録したりして、機能はしているのかな? 痛みの設定から、Fallout シリーズの Pip-Boy みたいなものを連想したんですが、あっちは装着者の腕の神経と一体化する設定で、つけると二度と外せない仕様だったはずです。こっちはそうでもなさそうなので、癒着とかはなさそうですね。

プライベート・ルーム

サムが起きて手錠端末をきちんと装着すると、すぐにダイハードマンから通信が入り、サムが眠りこけていた部屋が、ブリッジズのメンバーにしか使えないプライベート・ルームであると説明してくれます。ということは、サムはこの部屋がなんなのかハッキリ説明されないまま爆睡していたことになりますね。おつかれ!

ダイハードマンは前回のデッドマンと同じく、カイラル物質の汚れをシャワーで落として大統領に会いに来てくれと伝えて通信を切ります。サム、本当はシャワーを浴びたらすぐに大統領に会いに来ると周りは考えていたのに、当人は拒否して寝てたりとかしたんじゃないかな……?

プライベート・ルームはどこも基本的に同じ構造で、本格的にプレイを始めるとサムが拠点に戻って休憩するたびに入れるおなじみの場所になります。昔の RPG の王道でいうと宿屋みたいなもんですね。

BT のフィギュア

シャワーを浴びる前に部屋のなかを一通り見回して調べることもできます。枕元の机には、このゲームと提携しているアメリカ生まれのエナジードリンク「モンスターエナジー」がサム用に提供されているほか、サムのサングラスなどと並んで BT のフィギュアも新たに追加されています。焼却所前の座礁地帯を再現したものです。

このフィギュア、前にも書いたと思うんですけど、どういう意味があるんでしょうね? 前回はイゴール先輩とサムが初めて出会うシーンを再現したフィギュアで、この後も印象的な物語のシーンを再現したフィギュアがどんどん追加されていきます。

死体運搬ミッションのフィギュア

この前のサムとイゴール先輩、それから死体運搬用のトラックのフィギュアは、サムのベッド脇にあるショーケースに移されていました。よく見ると握手のために差し出されていたイゴール先輩の腕が下がっていて、展示用に新しいものに差し替えられているようです。大事な第二次遠征隊のために食べ物や飲み物が用意されているのは理解できるんですが、このフィギュアはナゾです。だれが作ってサムの前に置いているんでしょうね?

鏡

ほかにも鏡を使ってサムに変顔をさせたり、ポーズをとらせることもできます。

鏡

視点を変えてプライベート・ルームを見渡す際は、かならずサムが画面中央に映る構図で、むしろプライベート・ルームが背景になっている感もあります。部屋を見渡す角度によって、サムがシャワーを指さして懇願したり、ウィンクしたり、股間にズームすると手で隠して怒り出したりもします。ここはある意味、サム役のノーマン・リーダスさんの鑑賞会なんだと思います。

前にボタンごとに割り振られた機能が、画面中央下に案内が出るまでワンテンポ待たないとサムの操作がうまくいかないときがあるような気がすると言って、操作感が野暮ったいアクションゲームだというような感想を書いたことがあるんですが、このゲーム自体がノーマン・リーダス鑑賞会だと思うとちょっと納得できるところもあります。プレイヤーはゲームのなかのノーマンさんに向かって、「右向いて」とか「全力で走って」とかお願いして、サムに扮したノーマンさんがそれに応えているので、ちょっと行動までに遅延が発生する感じです。プレイヤーが「そこで立ちションしろよ」と言うと、「ここで放尿はまずい」と独り言を言う形で拒否したりするわけです。

血まみれの足

まあ、どうでもいいアホな話はここまでにして、プライベート・ルームで一通り遊んでやることがなくなったので、おとなしく指示どおりシャワーを浴びることにします。サムとデッドマンのシャワー中の会話で、プライベートとは名ばかりの空間であることがわかります。

シャワーシーンは、サムの体に付着したカイラル物質が流されていくので、排水溝に流れる水がところどころ黒く濁っていますし、なによりもボロボロになったサムの足に目が行きます。配達人のサムは歩いてなんぼなので、足が商売道具です。酷使した足は血豆どころの騒ぎではない血まみれ状態で、死体を運んだトラック横転事故の被害が大きかったことを物語っています。

赤ラメの血を流す男

死体焼却所でサムのブーツに血がついていて、足跡に血が混じる描写があるんですが、この足の状態なら、遺体を運んで山を登るうちにまた古傷から出血しだしたと考えるのが一番自然だと思います。

サムの血に反応する BT

私がこんな足になったら、配達なんて全力で拒否して家で傷が治るまで休んでいると思います。サムは自分のケガをだれに訴えるでもなく、文句を言うわけでもなく、シャワーを浴び終わるとおとなしく大統領執務室に出頭します。サムってなかなかのマゾですね。

指さし アメリカの名を冠した女に続く
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