前回までのプレイ日記で、サムと一緒にネクローシス寸前の遺体を運んでいた死体処理班のイゴール先輩がミッション失敗により爆発してしまいました。サムは死ねない特殊体質を持っているため、イゴール先輩が残して逝った装備品のブリッジ・ベイビーと一緒にこの世に帰還し、爆発でできた巨大クレーターを目にします。そこからさらに画面が切り替わると、そこはブリッジズのプライベート・ルームでした。

ムービー内の会話によると、サムが巨大クレーターの前で爆発ポエムを詠み上げてから、すでに2日が経過しているようです。プライベート・ルームとは名ばかりのプライバシーがない個室で目を覚ましたサムは、デッドマンという名前の男性と初めて出会います。サムがこの部屋で眠りこけた経緯は不明ですが、ブリッジズに保護というか、捕獲されたんでしょう。

手錠

起き上がったサムが異変に気付きます。手首に着けられた手錠型ガジェットがベッドのフレームのパイプに固定されていて外れないようです。これ、サムが以後プライベート・ルームで目覚めるたびに、律儀に毎回右手に手錠をしたまま寝ている様子が確認できるんですが、ものすごく寝にくそうですよね。私は絶対この状態だと熟睡できないと思います。サムは泥のように疲れて眠れるから気にならないんでしょうか?

この手錠端末をパイプに固定しなければいけない理由っていうのが、いまいちわからないんですよね。充電方法と仮定しても、なにかしらサムのデータを有線(?)通信していると仮定しても、これだけ最先端テクノロジーを駆使する世界で、わざわざこんな不便な方法を選ぶ理由がわからないので、サムが寝る前に律儀にここに手錠を固定するのはなぜなのか考えてしまいます。

ただ、作品のメタファーとして考えると、組織に所属することを束縛として表現したいんだろうなというのはわかります。このゲーム、オンラインゲームの面倒な部分を取り除いて、ほかのプレイヤーの存在がちょうどよい距離感に収まるように設計されていたり、物語でつながる大事さを描きながら、つながる問題も同時に描こうとしています。手錠端末もその二面性を象徴するもののひとつなんだと思います。通常の手錠は相手を束縛するものだけど、ガジェットにすることで本人が自発的に手錠をはめる構造になるのもポイントですよね。

泣くサム

起き抜けにまた泣いているサム。なんとなくこの涙は感情由来のような印象を受けます。小説版『デス・ストランディング』ではクリフォード・アンガーの夢を見ていて、「BB、守ってあげる」とBBポッド越しに語りかけられたところで目を覚ましています。のちほど2日も眠りこけていたことについて、サムは対消滅のあとでも自然とこんなに眠り続けることはあり得ないとし、だれかの作為を疑っています。

ここから EPISODE 1 に突入して、サムの義母であるブリジット・ストランド大統領の話が掘り下げられます。母と息子のテーマは、10代のときに父親をなくしてから母親だけの一人親家庭で育った小島監督自身の経験から来ているもののようです。小島監督の母親はこのゲームの製作中にお亡くなりになっています。KONAMI から独立して、自分のゲームを創っていることを、小島監督は彼女に話せなくて、今となってはちょっと後悔していると VOLTURE のインタビューで話していました。なので、このエピソードのサムには多かれ少なかれ小島監督自身のエモーションも乗っかっていると思います。サムを演じるノーマン・リーダスさんも幼いころに両親が離婚して母子家庭で育ちました。父親とは疎遠になっていましたが、亡くなる少し前に再会して看取った経験が TV番組『ウォーキング・デッド』の演技にもつながっていると過去にインタビューで話していたことがあります。

デッドマン

手錠をガチャガチャし始めたサムに気付いて、デッドマンが姿を現します。手錠端末の使い方をはじめ、これからサムにシステムの使い方をいろいろレクチャーしてくれるのは彼です。

デッドマンのキャラクターモデルを務めたのは小島監督と一緒に Silent Hills やそのプレイアブルティーザーの P.T. を製作していた映画監督のギレルモ・デル・トロ監督です。その後小島監督が KONAMI を去ることになって開発プロジェクトが中止になった際、彼は小島監督の側に立って KONAMI を痛烈批判しています。今回はその縁なのか、特別出演で主要キャラクターの演者になっています。名前の一番下の「ジェシー・コーティ」ってだれだと思ったら、声優さんだそうです。どうやら発声はプロにかなわず、吹き替えされることになった模様。あのボソボソ話す感じがすごくリアルだったので、あらためて声優さんってすごいなって思いました。

デッドマンは第一声で結び目から帰還するのはどんな感じかとサムに訊ねています。初回プレイだと野次馬根性みたいな、あるいはデッドマンが医療研究者なので人を物として見ているような印象を抱きがちです。小説のサムもデッドマンを観察して似たような分析をしています。でも、彼の生い立ちを知った2周目では、じつはものすごく自分のことのように親近感をもって訊ねている印象に変わります。

彼は見た目も不気味だし、名前からして死と結びつけられているキャラクターなので、監察医から医療チームに配属された背景などもあって、どういうキャラクターなんだろうかと初対面からいろいろ推測してしまう人物だと思います。でも私は正直、彼こそが本作のヒロインだったんじゃないかと疑い始めています。

あの白衣ならぬ赤衣を見たときに思わず昔のブリちゃんを思い出してしまいました。絵に描いたアメリカズ・スウィート・ハートでしょ。ちゃんとデッドマンの脇の下に通気孔がポツポツと空いてるのも細かいんですよね。

デッドマンは iPS 細胞などに代表される多能性幹細胞から人為的に造られた生命体という設定で、それゆえに再生できなかった不完全な臓器を持っていました。彼はそれを死者の臓器に置き換えることで生きながらえています。体の70%は他者の死体からかき集めた組織でできており、フランケンシュタインの怪物を自称します。特殊な生まれ故に死に一番近い存在でありながら、人の子宮から生まれなかったせいで魂を持たないらしく、自分のビーチも持っていないそうです。この世界観、へその緒が重要そうですもんね。意思や人格を持つ一人の人間でありながら、この世界の摂理では命の価値に疑問符が突きつけられているような状況で、半ば物扱いされている点は、ブリッジ・ベイビーにも近いところがあります。デッドマンにとって、ビーチは憧憬の対象です。なんていうか、もし彼が美少年や美少女の萌えキャラだったら、NieR:Automata の続編とかに出てきそうな設定じゃないですか?

手錠端末

デッドマンの「そいつがあんたを24時間監視する。いやそいつで我々がサポートする」というセリフは、上述のつながる問題と温かさの両面を一枚の字幕ですべて表してくれています。

こういうガジェット大好きなので、このゲームをやっていると手錠端末がほしくなってくるんですけど、チェーンの折りたたまれた部分がなかなかジャマになりそうな突起になっていて、着け心地がかなり悪そうだと思いました。内側に膨らんでいるので、歩いているうちに腿とか腰とかにけっこう当たるんじゃないかなぁ? 物とかにも引っかかってイライラしそうです。

あと、装着時に針で刺したような痛みがあったと小説に描写があるので、本当に装着者のバイタルを拾うためのなんらかのパーツを刺しているなら怖いガジェットだなと思いました。なにかを埋め込まれているか、じゃなかったらなにかが刺さったままになっているのか。一時的な血液採取とかならまだいいんですけど、カイラル物質が流れる都合で起きる静電気みたいなもんとかであってほしいものです。

Bridges

サムをサポートするデッドマンをはじめとした「我々」とは、死体処理班のイゴール先輩が属していた「ブリッジズ」という組織です。手錠をかけられたことで、サムはある意味、ジャック・ベイカー並みの強引さでこの家族に加えられてしまいました。

ブリッジズは、デス・ストランディング現象によって世紀末状態に陥った北米大陸を立て直す使命を掲げた組織で、大統領を擁する点からも政府としての機能を担っています。ゲームでは人々に必要な物資を届けるサム視点で見ることが多いので、Amazon が顧客からカルト的な信頼を集めて為政者に成り上がった組織のようにも見えます。

ブリッジズのマークも不穏なクモの巣を連想させるデザインになっています。小説にも書いてあったので、このデザインはクモの巣で間違いないようです。北米大陸をつなぎ直すための表現に、獲物を捕らえる捕食者の罠を用いるという点に、つながることの怖さがこれでもかと出ていると思います。アメリの魂胆が透けて見えます。

Repatriate
a person who has returned to the country of origin or whose citizenship has been restored.

https://en.wiktionary.org/wiki/repatriate

ちなみに、普段の英語版のセリフでも同じ単語が使われているんですが、ここのデッドマンの字幕の「帰還者」の部分に“Repatriate”というルビがわざわざ振られていたので、英英辞書をオンラインで調べてみました。動詞が名詞として使われているパターンみたいで、CambridgeLongman あたりの定番辞書では名詞で見つかりませんでした。動詞の場合は人だけに限らず、物やお金、財産に使うこともできるんですが、イメージとしては対象物をもとの属していたところに送り返すような意味合いです。人の場合は、具体的には、戦争の捕虜や難民、きちんとした手続きの条件を満たさずに他国に入国しようとした人などをもとの国に送還する場合に使われることが多く、たんにもとの場所に送り返すというよりは、どっちかというと大人な事情で公式な手続きの末に戻される場合に使われる印象です。サムが絶滅体の捕虜であったことを示しているのか、あるいは単純にアメリからビーチ入国禁止にされていることを指しているんでしょうね。

そう言えば、小説のサムはビーチに行けない自分の“Repatriate”性癖について、肉体が滅んで送還される先がなくなれば、永遠に結び目をさまようことになると考えていて、その恐怖にちょっと怯えているようでした。ちょうど入国を拒否されて空港で生活することになるトム・ハンクス主演の映画『ターミナル』っぽいイメージですよね。

GAMEOVER

一緒にいた死体処理班のことをあらためてサムが問うと、デッドマンはセントラル・ノットシティごと対消滅で吹き飛んだことを教えてくれます。小説によると、サムはここで記憶を取り戻して罪悪感を覚えたようです。

後ろの画面の“GAME OVER”の文字に METAL GEAR SOLID シリーズから引っ張ってきたネタがちゃっかり仕込まれています。デッドマンが言う“Continue”の文字は、“GAME OVER”と半ばセットで表示されるメタ表現です。こういう細かい演出好きです。なによりちゃんと自分で築いてきたものを正統に使えるのはいいことだと思うんですよね。

“コンティニュー”できたのは、あんたとあんたが接続していた不良品のブリッジ・ベイビー(BB)だけだ。

デッドマン

ここのセリフ、ちょっと違和感を覚えました。小説にも同じセリフがあります。サムはこの時点でまだ BB とは接続していないはずなんですよね。接続していたのはイゴール先輩です。そもそもフリーの配達屋のスーツには、ブリッジズの公式スーツと違って、BB ポッド接続用のケーブルが最初から付いていないんじゃないかなぁと思うんですけど、気になったので英語版のセリフも調べてみました。

The only ones to get a countinue were you – for obvious reasons – and your broken bridge baby.

Deadman

「あんたの壊れたブリッジ・ベイビー」という表現になっていて、接続の有無に関しては言及していません。二人が接続したとデッドマンが思ったのはなんででしょうね? BB 側の記録では、接続したのと同じような記録でも残っていたのかな?

BB の廃棄が決定したことを話すデッドマンに対して、言葉は飲み込んでいますが、小説ではサムがけっこうな疑問を感じています。この時点でかなり BB に入れ込んでいて、のちのち第二次遠征隊になったのも、彼女の延命がひとつの大きな動機だったと明かしています。ゲームだと立ち上がるぐらいの感情表現しかなくてまだわかりにくいんですけど、絆はこの時点ですでにできていると考えていいと思います。

フレデフォート

サムが BB の廃棄に疑問を感じているあいだに、デッドマンはイゴール大爆発でブリッジズの体制に変化が生じたことを語っています。「……フレデフォート、つまりセントラル・ノットシティも……」という表現があったので、地名かなとちょっと気になりました。このゲームは北米大陸を舞台にしているんですが、実際はゲームの都合でかなり縮小されたマップになっています。設定上セントラル・ノットシティが実際のアメリカ合衆国のどこらへんになるのかわかるかと思って興味本位で調べてみたら、フレデフォートは南アフリカ共和国フリーステイト州にある巨大な隕石衝突跡らしいです。つまりイゴール大爆発の跡地と同じクレーターですね。どうやら立地ではなく、歴史的な巨大クレーターの名前を施設のニックネームにしているみたいですね。

サドベリー

そのフレデフォートことセントラル・ノットシティが爆発で吹き飛んでしまったので、ここサドベリーことキャピタル・ノットシティが新しい本部に引き上げられたという話みたいです。サドベリーは米マサチューセッツ州のボストンより西に行ったところに同名の都市があるんですが、きっとこの流れだと巨大クレーターつながりでカナダにあるほうのサドベリー盆地のことだと思います。

じゃあ、小島監督のことだから恐竜を滅ぼしたチクシュルーブとかもどこかにあるんでしょうね。初回プレイでは全然意識していなかったから、まったく気付きませんでした。そう言えばこれぐらいの規模のクレーターになると、地磁気や重力も狂うらしいので、デス・ストランディング現象で物理法則が狂う設定はここから来ているんでしょうね。

フィギュア

デッドマンがしゃべり続けるうしろで、その話を聞いているのか聞いていないのか、辺りを見回し始めたサムが、テーブルの上に置かれたフィギュアを発見します。今回のものはサムとイゴール先輩、それから横転事故を起こしたトラックで、いかにも3D プリンターで印刷しました~というようなフィギュアです。今後ストーリーが進むごとに関連する人物や物のフィギュアがどんどん追加されて、サムの枕もとのケースに展示されていくんですが、これって一体なんなんでしょう?

機能的にはそこからクリフォード・アンガーの戦場と化した悪夢のビーチに行けるんですが、冷静になると、だれがなんのために作っているのかナゾですよね。たんなる遊び要素なのかな?

重要人物補正

デッドマンは長官と支援部隊がたまたま対消滅を免れることができたように語っていますが、イゴール大爆発のシーンをよく見ると、絶滅体のアメリがヒッグスを寄越して意図的に起こした可能性もけっこうあると思うので、今後必要なリソースが無事なのは当然だと思います。ところで日本語の「長官」だと何担当の長官だよと考えてしまうんですが、英語だと“Director”らしいので現行政府の長官を意味する“Secretary”とは別物のポジションですね。

ステンシル

頼みごとがあると本題を切り出したデッドマンが、目に入ったサムの手形に興味を示します。サムが結び目から帰還するたびに増える手形はどういう理屈で設定されているのかよくわかっていません。開いた手のひらは縄と同じくいいものを引き寄せるためのもので、BT が生者を求めるときの形と一緒です。サムの手形はビーチへ引きずり込まれるときにつくんでしょうか? 新しいフラジャイルの手形とは対になっていそうなんですけどね。

サムの接触恐怖症もデス・ストランディング現象が絡んでいるのか、あるいはたんにサム個人の心の問題なのかナゾですよね。人に触れられた場所が、医学的に明確な原因がないのにもかかわらず炎症を起こすというのは、一見するとあり得ない現象のように感じるんですが、心理的なものに起因して起こる可能性は現実でもあるらしいです。そう考えるとストーカー女に触られたん、めっちゃイヤやったんやな、サム。

ルビが振られているとおり、この手形は洞窟壁画に見られるステンシル手形がモチーフになっているものと思われます。壁に自分の手を置いて、上から口に含んだ染料を吹き付けるステンシル技法みたいな方法で描いたんじゃないかみたいな話を聞いたことがあります。サムの帰還者の烙印も、手形自体は明るくて、外側に向かって色素沈着が広がっていて、手形自体が炎症になっているフラジャイルのものとは型が逆なんですよね。

ちなみに小説では、体についた手形を無遠慮に観察するデッドマンについて、サムは不思議と憎めないと評しています。それはおそらく、アメリカズ・スウィート・ハートのなせる業でしょう。

お薬配達任務

一通りサムの話が終わったところで満足したのか、デッドマンはサムに頼みたい用事の説明を続けます。サムがいる個室とは別棟の隔離室まで、末期がんで苦しむ大統領のためにモルヒネを届けてほしいという依頼でした。目的はモルヒネではなく、サムの育ての親である大統領が最期にサム本人と話したがっているからです。

サムは思うところがあるのか素直に応じようとはしません。「あんたには届けるべき理由と責任がある」と言うデッドマンに、サムは挑発交じりに「あんたが行けばいい」と提案します。

デッドマンは自分がカイラル物質を使って投影された「カイラルグラム」というホログラムであり、実際は届け先の隔離室にいることを打ち明けます。なにげにこのカイラルグラムが消えるときのエフェクトって、フラジャイルがビーチにジャンプするときと同じですよね。デッドマン曰く、涙が流れているのもカイラル・アレルギーを起こしているかららしいので、今後出てくるキャラクターたちがカイラルグラムでサムの前に現れているとき、みんな目と鼻が大なり小なりグズグズになっているんですね。

カイラルグラムのすごいところは、サムの体を通り過ぎるホログラムにすぎないデッドマンが、モルヒネが入った配達ケースを遠隔操作で開けているところだと思います。たぶんブリッジズ標準規格のものはある程度カイラルグラムで操作できるように設計されているんでしょうね。こう考えれば以前にママーが遠隔地から配達物のチェックをしていた理屈も少し説明できるようになります。

モルヒネ配達開始

長くなったので、モルヒネ配達は次回にまわそうと思います。

指さし 義母をたずねて498.3mに続く
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